妻と男の物語


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3年前、それから17-2

[Res: 3676] Re: 3年前、それから17 忠太郎 投稿日:2008/04/08 (火) 20:20
〔孫悟空〕
さすがに月曜日の朝、典子と顔を合わせるのは照れくさかった。典子は何事もなかったかのように、活き活きと設計に取り掛かっていた。珍しくスカートを穿いていた。
「所長、さっき現場から連絡がありまして、午後一で打合せをしたいそうです」
チラッと見ると少し化粧をしている。多少色気が出てきたのか。それにしても女は恐い。
夕べも帰ったときに“典ちゃんとのデートは楽しかった?”と言われた時は、キンタマを握り潰されるような恐怖で血の気が引いた。今朝、また、シャーシャーとした典子を見ると、
“俺は、裕子と典子におちょくられているのではないか”と思った。

極めて平静を装ったが、まずい事に、石田は今日も休みだ。典子と二人だけの事務所は気が重い。典子がコーヒーを淹れてきた。
「昨日はありがとうございました……」
典子の顔は、裕子としっかりと連携が取れている顔だ。溜め息が出た。
「お疲れのようですから、肩でもお揉みします」
お釈迦様の掌の上で、ぐるぐる回っている孫悟空のような心境だった。
「所長、あたしがいなくなると寂しいですか?」
「寂しかないよ、可愛い娘にきてもらうからいいよ……」
「それって、本心ですか……」
典子は私の首をロックして締め上げてきた。背中に乳房の弾力を感じた。
「おまえ、く、苦しいだろ……、やめろよ……」
「本心で言ってるんなら、このまま絞め殺します!」
私は、手を後ろに回してスカートを捲り上げた。
「何するんですか、セクハラですよ。奥さんに言いますよ!」
その顔は笑っていた。
「勝手に言え、おまえ等二人で俺を嵌めやがって……」

典子が抱きついてきた。
「止めろ、誰か来たらどうするんだよ」
「誰も、来ませんよ。ちゃんと鍵もかけてあるし」
「いいからおまえ、仕事やれよ」
「昨日の夜から始めて、完成しました。見てください」
本当に設計図は出来上がっていた。もしかして、土曜日のことは典子の芝居だったのだろうか。それにしては演技賞ものだ。しかし、間違いなく完了している。それも、私が思ったとおりの設計図が。だとしたら、ほとんど寝ずに図面を引いていたことになる。
「あたし、昨日の夜から頭がスッキリして、次から次から、構想が浮かんできたんです。所長、誉めてください」
「あっ、ああ、よくやった………。ほんとによくやった。これなら完璧だ。木村さんも絶対に気に入る。大丈夫だ!」
「ホントですか?」
「ああ、本当だ。よくやった」
典子の目からは、大粒の涙が溢れていた。
「もう、九州へ帰ってもいいですか」
「だめだ。九州へは帰るな……」
「だって、だって、帰らないと………」
私の胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。これほど典子を可愛いと思ったことはなかった。

上げた泣き顔に思いっきりキスをした。力いっぱい抱きしめてやった。典子の代わりはいない。誰にもこの代わりはできないだろう。居なくなった穴は大きい。石田と二人では、とてもやりきれない。
「よく頑張ったな!」
何度も典子を誉めてやった。やっぱりこの娘は笑顔が一番いい。
「あの、あたしの代わりに一人、面接して欲しい娘が居るんですけど」
「だれだ、おまえの友だちか。おまえより可愛い娘ならいいぞ」
「それは、どうか判りませんけど、わたしの大学の同期で、いまはフリーでバイトしてます」
あまり気乗りはしなかったが、典子の推薦なら会ってみようと思った。
「それじゃあ、今日の夜にあたしがセットしますから」
「合コンするわけじゃないんだから、会社に連れてくればいいじゃないか」
「それでもいいんですけど、今週はバイトを休めないらしくて、あたしも今週しか……」
「えっ、典子も今週しか居ないのか。そうか……」
そういうと、典子は嬉しそうな顔で言った。
「ですから、裕子さんに九州に帰るまでは、パパの事は好きなようにしていいって」
「そんなこと、裕子が言うわけないだろ。うそだろ……」
「ホントです。何なら奥さんに確認してください。それから、愛には、あ、その娘、愛って言う名前なんですけど、絶対にセクハラしちゃあ、ダメですよ!」
「いいか。俺はおまえにセクハラされたんだぞ……。いつ俺がセクハラした」
「こんないい女に、何にもしないのは、セクハラです」
典子にも裕子にも、敵わない。
「いいか。その娘をうちの事務所に入れたとしても、おまえは、必ず戻って来るんだぞ」
典子の目に、また大粒の涙が溢れた。絶対に泣かない娘だったのに、こんなに涙もろいとは。またしっかりと抱きしめてやった。これはセクハラだろうか。
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