妻と男の物語


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悪魔のささやき28

[5291] 悪魔のささやき28 ナオト 投稿日:2008/11/22 (土) 01:21
自分が考えていたほど反応がなく、今一度勉強し直してまいります。
読んでいただいた方、申し訳ありません。ありがとうございました。



直立不動のまま、視線を斜め下に向けている真由香に向かって、
「さ、脱いでもらおうか。」とえびす顔で矢崎は催促する。
少し髪は乱れているが、真由香はほとんど、ここへ来たときの清楚で可憐な外見のままだ。

白いシフォンワンピースは、年齢より若く見える真由香をさらに若々しく魅せている。
膝小僧の5センチくらい上までの裾のあたりは、フリルのようになっていて、少女らしい可憐さを醸し出しているが、襟元のカットと、袖の微妙な長さがエレガントな大人の女性を演出していて、真由香のセンスのよさの表れだろう。
二の腕が思いのほかぽっちゃりしているのは主婦の証しとでもいおうか。
すんなりと伸びた白い脚は、ふくらはぎが細く、まっすぐで綺麗な形だ。裸足の足の指まで、その清らかさは続いている。

真由香は俯いたまま、両腕を上げた。このワンピースは後ろ側、丁度うなじの下辺りにボタンが三つほどある。
真由香はボタンを二つ外した。一呼吸、何か考えるようにしていたが、次の瞬間、右側の肩からワンピースを下にずらすように脱ぎ始めた。
右手を抜くと、水色のブラジャーの右の肩紐が覗いた。同じように今度は左側も脱ぐ。
両手を完全に袖から抜くと、胸の辺りでワンピースを押さえたまま、じっとしていたが、
意を決したように手を離した。ストンと白のワンピースが畳に落ちた。

薄水色のブラとパンティ姿になった真由香に、矢崎はゴクリと、生唾を飲み込む。
何と白い肌だ。身体のラインも思ったとおり素晴らしかった。
わずかにわき腹の辺りに、出産経験の名残りともいえる密やかなふくよかさを漂わせているが、それがまた人妻らしいほのかな色気となって男を惹き付けるのである。
胸の辺りを押さえ、止まったままの真由香に向かって矢崎が言う。
「どうした、全部脱ぐんだ。」

真由香は両手を後ろに回した。ブラジャーもショーツとお揃いでシンプルなものだった。
レースがわずかにほどこしてあり、清潔な真由香の印象に合っている。
背中のホックを外した。肩をすぼめるように胸の上でブラジャーを押さえていたが、あきらめたように、ついに真由香は胸からブラジャーを離した。
両手で胸を隠す真由香。矢崎がすかさず声をかける。
「手をどけて。」
両手を胸から外し、真由香の乳房が露になった。

美しい乳房だった。大きさはそれほどでもないが、形のいい御椀型の胸だ。
マシュマロのように白く柔らかそうで、血管が透けて見えている。
乳首は薄い茶色で乳輪は平均的な大きさだろう。乳輪から乳首への段差が少ないタイプで滑らかに乳首に繋がる形だ。
矢崎は満足感に溢れる気持ちで、胸を曝した真由香を見つめている。
真由香に会ってからまだ一週間経ってないのだ。なのにこうして俺の前で乳を曝してるじゃないか、という爽快な気分なのである。

真由香は顔を真っ赤にさせて、俯き加減に唇を噛んでいる。
「最後の一枚だ。」矢崎はたたみかけるように、引導を渡す。
真由香は震える手でショーツの両脇に親指をかけた。
すっと数センチ、その指が下へ動いたところで、一瞬止まったが、ついに膝までゆっくり下ろすと片足を上げ、とうとう一糸纏わぬ姿を矢崎に見られてしまったのである。

生まれたままの姿になった真由香を、鼻息を荒くして矢崎は見つめた。
どこまでも神々しいまでに清らかさを誇示する真由香の裸身。
両乳房は柔らかそうに優しげな母性を感じさせ、乳首が恥ずかしげにわずかにその先を上向かせていた。
そして、下半身の真由香の繊毛のようなヘアに包まれた神秘は、うっすらと中央に向かってそよぐように密集している。
そこは露ほどの淫靡さも見せようとしない人妻の凛々しさがあった。

「後ろを向くんだ。」
矢崎はお猪口に再び冷酒を注ぎながら言う。じっとしていられないくらい興奮するのだ。
真由香は顔を斜め下に髪の毛で隠すように俯きながら、ゆっくり背中を向けた。
本当に歪みのない、綺麗な体系をしている。グラマーとかそういうタイプではない。
背筋が綺麗に伸び、ウエストも厭味なく自然にくびれている。ヒップは横に大きいタイプではない。

ウエストから徐々にやんわりと丸みを帯び、むっちりとした太ももに繋がっている。
柔らかそうな臀部にはちょうど腰の辺りに可愛い二つのえくぼが出来る。
矢崎はこういう尻が好きだった。
真由香は高校の頃までバスケットをやっていて、社会人になってからも、ジムなどに通っていたので割りと筋肉のあるほうだったが、
さすがに子どもを産んだ今は脂肪の乗ったしっとり柔らかそうな尻になった。
両手を前で繋ぐようにしながら、片足に体重を掛けるようにしている真由香の後姿は、恥じらいが手に取るように伝わってくる。

「よーし、そのまま前向いて。」
真由香は成すすべもなく、従うほかなかった。
「ほら、前隠さない。」どうしても股間の茂みを隠してしまう真由香は、すぐに矢崎に指摘される。
「奥さん、綺麗だぞ。素晴らしい身体してるじゃないか。」
矢崎の声には喜びが溢れていた。赤ら顔も満面の笑みである。
矢崎はもう一口お猪口の冷酒を飲むと立ち上がり、真由香のそばに寄った。

「ほんとに綺麗だ。」と俯いた顔を隠している真由香の柔らかな髪を、すっと耳にかけてやるのだ。
真由香の表情は恥じらいに染まっているが、そこには心を完全に閉ざした静かな意思のようなものが感じられる。
矢崎は真由香の手首を取り、窓際へと連れて行く。
「奥さんは賢い人だ。もう俺がつべこべ言わなくても、逆らったりしないよな?」
女性をこんな卑劣なやり方で陵辱する男が、現実にいることが信じられなかった。
この男には子どもはいないのか。他人の妻、子どものいる主婦である自分に対して行っている行為を断じて許さない気持ちが沸き起こってくる。

「どうしたんだ、聞いてるのか?」
再び問いかけられ、小さく頷くしかない。
矢崎は窓のサッシの段差の部分に座布団を置き、「ここに座るんだ。」と真由香を誘った。

窓ガラスの外側に竹の簾がかかっているが、外の景色がちらちら見えている。
眼下には月極の狭いパーキングがあり、その隣りは4階立てくらいの雑居ビルがあった。
いずれも風俗店やスナックなどの看板が出ている。まわりも全て様々なビルが囲んでいるが、どれも古臭いたたずまいで、まさに新宿の裏側の雑然とした風景という感じだ。
真由香は矢崎が何をたくらんでいるのか不安でいっぱいになる。
押されるようにして、窓際の座布団に座らされてしまった。

矢崎が真由香の前にしゃがみこんだのを見て、反射的に真由香は股間を隠すようにする。
「手、どけるんだ。」矢崎が睨んだ。
真由香は唇を噛みながら、静かに手をずらし顔を横に向ける。
矢崎はおもむろに真由香の両膝を持つと、ぐいっと、いきなり真由香の両脚を左右に広げた。
「ひっ!」驚きに、声にならない真由香の小さな悲鳴が響く。同時に両膝がすごい力で閉じられようとした。
「逆らうなと、言ってる。」矢崎が口を尖らせて間髪いれず叱咤する。
眉毛をキリッと吊り上げて、真由香は唇を固く結んだ。瞳は力強く見開いて遠くを見ている。
矢崎にゆっくり開脚されながら、新宿の夕暮れ時をぼんやり見つめるのだった。
  1. 2012/12/28(金) 11:24:00|
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悪魔のささやき27

[5281] 悪魔のささやき27 ナオト 投稿日:2008/11/21 (金) 22:47
矢崎のねちっこく侵入してくる手の感触のおぞましさに、真由香はガクガクと膝が震えるのを止められなかった。
「汗かいてるぞ。今日は暑かったからな。」
耳元でそっとささやくと、ついに矢崎の手は、静かに真由香の下着が見えるところまでスカートを捲くった。
真由香のショーツが露わになった。

薄い水色のごく平凡な形で、左右のほんのわずかなところだけレースがあしらってある。
「ほう、奥さん、こういうパンツ穿いてたのか。」
可愛いじゃないか、とスカートを尻のほうも捲り、後ろから真由香の臀部を見下ろすように眺める。
正座したつま先が、真由香の緊張を表すかのように白く覗いている。
矢崎の分厚い手の平が、真由香のショーツに包まれた尻に触れた。

(いいケツしてるじゃないか)
決して大きいというわけではないが、真由香の尻は、丸く少女っぽさも残しながら、人妻らしい脂も乗って指にしっとりとした感触を残す。
ついにこの女のケツを触った。矢崎は夏の初めに、公園で初めて真由香の写真を見た日を感慨深く思い出しながら、その尻を存分に堪能するのである。

真由香は氷のような表情を浮かべ、まるで意思を封じ込めたかの如く、ただ一点を見つめながら耐えていた。
涙は止まっていたが、頬にその後が残っている。
貴彦や真貴のことを考えると涙が出て、気が狂いそうになる。すべての気持ちを封印して、ただ時が過ぎるのを待つしかないと思った。
矢崎はふいに立ち上がると真由香の後ろに回った。あっと言う間もなく、真由香の両脇から腕を差し入れ、胸を鷲づかみにされた。

「やっ!」
反射的に真由香は抗う。しかし、矢崎は強い力で抱きすくめるように胸をつかみながら、
身体を密着させ、真由香の頬に顔を擦り付けるようにするのだ。
「いっ、嫌っ!」
冷静でいようとした真由香だったが、ふいを突かれるとやはり耐え切れない。身の毛もよだつような男に、生理的に拒否反応を起こしてしまうのである。
矢崎の熱い鼻息がうなじにかかった。酒と煙草臭い匂いに「うっ」と顔を背ける。
ワンピースの上から真由香の乳房が強引に揉みしだかれた。左右十本の指でしぼるように揉まれ、布地の下の乳首を探るように指で摘まれる。

「やっ、いやだっ。」
真由香は力任せに振り払った瞬間、体勢が崩れた。そのままなだれこむ様な形で畳の上に倒されてしまった。
「こっ、こんなところで、やめてくださいっ!」
矢崎に覆いかぶされて、真由香は懸命に抵抗し、足をバタつかせる。矢崎は真由香の両足の間に身体を入れ、真由香の腕を押さえつけた。
「大丈夫だよ。誰も来ねえから安心しな。」そう言うと、四角く開いたワンピースの襟元に手をかける。
ショーツと揃いの薄水色のブラジャーが覗いた。

真由香の両手首を頭の上で左手でがっしり掴むと、捲くり上がったスカートの下のショーツの上から、真由香の股間に触れる。
「いやあっ!」
真由香が叫んでも一向におかまいなしに、矢崎はショーツ伝いに感じられる真由香の亀裂に芋虫のような指を食い込ませた。
ぐいっ、ぐいっと恥ずかしい真由香の花芯をこするように、食い込みに沿って揉みこむようにする。
「くっ。」敏感な部分を強引に擦られ、真由香はさらに足で抗った瞬間、真由香の膝が偶然に矢崎の股間を直撃した。

「ぐえっ!」
まともに睾丸を蹴られた矢崎は、カエルのような声を発し、しばらく顔をしかめていたと思うと、いきなり右手で真由香の頬に、パシッとビンタを食らわした。
「いいかげんにしろっ!」
物凄い剣幕の矢崎だったが、真由香は怯むことなく、きりりとした瞳で睨み返してくる。
「な、なんだよ、その目は。」真由香の真っ直ぐな視線に、矢崎のほうが逆におどおどとしてしまった。この男の垣間見せた気の小ささに、真由香は益々嫌悪を覚えるのである。

「占い師のような才能があるのに、何故人を悲しませるようなことをするんですかっ。」
いきなり思いもよらぬことを言われて、矢崎は呆気にとられてしまった。
真由香に言われなければ、自分が天城蒼雲だということも、うっかり忘れるくらいだった。こんな状況で真由香がまだ信じていることに、つい可笑しくなってしまったのである。

「はあーっ」矢崎は大きくため息をついて、ゆっくりと真由香から離れた。
「残念だが、どうしても奥さんはその気になんないみたいだな。
旦那まだ会社にいるかな?とりあえず、メールだけでも送っとくか。」
矢崎は完全に愛想をつかしたような演技をしながら、携帯を取り出し、おもむろに操作を始める。
「ま、待ってくださいっ!」
真由香は起き上がり、携帯を持っている矢崎の手を掴み、必死で懇願する。

「あんた口ばっかじゃねーか。言うに事欠いて、人の仕事にまでケチつけて。」
矢崎は真由香の手を振り切り、立ち上がって尚も操作を続けようとする。
「許してくださいっ、謝ります。もう逆らいませんからっ!主人にだけはっ」
真由香はすがるようにしがみついて、泣き叫んだ。
両手で矢崎の腕を握り、懸命に許しを請う真由香を横目でちらりと見つめると、
「本当に心入れ替えてくれるのか?今度逆らったら最後だと思ってくれよ。」と、
矢崎は念を押すように冷静な声で言うのである。

「わ、、わかりました、、。」
覗き込むような矢崎の目に、真由香は俯いて頷くしかなかった。
「服を自分で脱いで裸になるんだ。」
真由香の顔からさっと血の気が引き、口元が何か言いたそうにしたが、唇を噛むしかなかった。
矢崎はあぐらをかき、冷酒を一口飲んで、煙草に火をつける。
真由香は部屋の隅に立ち、後ろを向いている。
「もっと近くに来て、こっち向くんだ。」
真由香は俯いたまま、静かにこちらを向いた。
  1. 2012/12/28(金) 06:43:18|
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悪魔のささやき26

[5226] 悪魔のささやき26 ナオト 投稿日:2008/11/18 (火) 18:48

テーブルの上には何回かに分けて運ばれた寿司の皿が、数枚平らげてあった。
矢崎は三杯目のジョッキに入った。
真由香は初め全く手をつけなかった。ビールも一口二口喉を潤す程度だったが、矢崎がこっちまで白けると、しつこく促すので仕方なく口に運んだ。
矢崎の言う通り、店の外観に似合わず新鮮なネタに、旨いと感じてしまう自らの味覚を恨めしく思う。

会話はほとんど矢崎が一方的に喋っていた。ときどき矢崎の問いかけに、答える程度である。
しかし、その内容は真由香にとって苦痛だった。この前のように下ネタのほうが、しらばっくれていられただけ幾分ましかも知れない。
「旦那には上手いことごまかせた?」とか、「娘さんは託児所かい?」とか、
「旅行の準備するフリも大変だっただろ?」などと、真由香の心情を逆撫でするかのような、あたかも旦那の目を盗んで、自ら不貞を働く女に対するような会話を振ってくるのだ。
ジョッキを三杯空けたというのに、あまり酔っているようには見えない矢崎は立ち上がると、「オヤジ、冷酒持ってきてくれ」と階段から呼んだ。

ほどなく冷酒が運ばれると、「こっちこいよ」と矢崎は隣りに座るよう誘う。
真由香の表情がこわばった。悔しさでいっぱいになる。足が動かない。
「ほら、ぐずぐずしない、こっちこっち。」矢崎に腕をつかまれ引きずられるように、隣に座らされた。
そのとき、真由香のスカートの布地越しにブルーの光が点滅した。
ビクリと驚いたようにポケットに手を入れた真由香は、マナーモード着信を知らせる携帯電話を取り出した。

「誰からだ?」
矢崎の問いに無言のまま困惑した表情で視線を逸らす。貴彦からだった。
立ち上がって電話に出ようとする真由香の腕を矢崎は寸でのところで摑まえた。
「な、何するんですかっ!」
強引に携帯を取り上げ、液晶画面を覗き込んだ矢崎はにやりと笑うのだ。
「貴ちゃんって旦那か?」
「返してっ!」奪い返そうとする真由香の腕をつかんだまま、からかうような口調で言う。
「俺が出てやろうか?貴ちゃん、今あんたの奥さんと差し向かいで呑んでるところだって。」

真由香の表情から血の気が引き、身体が固まる。マナー着信のバイブレーターのブーン、ブーンという低い振動音だけがしばらく部屋に響いた。
「携帯はしばらく預かっとく。」
ここまで来て気が変わられちゃ困る。蛇のような執念深さを持った矢崎の冷静な行動だった。
やがて着信のバイブレーターが停止し、これで貴彦との最後の繋がりも奪われたのだと、真由香の全身から力が抜けた。

「さあ、これで気持ちの整理もついただろう?」
矢崎は不気味な笑顔で言うと、お酌してくれよ、と左手で真由香の肩を引き寄せながら、ガラス製のお猪口をつまむ。
真由香のブラウンの髪から、ほんのりシャンプーの匂いがする。
(まさに本物の素人主婦の匂いだ。水商売や風俗女の香水臭い匂いとまるで違う)
抱いた左肩の下の半そでの裾から、人差し指を少しだけ入れて肌の感触を楽しむ。
すべすべとして、少女のようだ。

矢崎に促され、四合瓶の冷酒を取ると、真由香は小刻みに震えながら、お酌をした。
グイッと一口で飲むと、そのお猪口を真由香に差出し、矢崎は冷酒を注ごうとする。
「吟醸だ。旨いぞ。」「あたし、、いいです。」固いこと言うなって、と強引に注がれる。
仕方なく真由香は、指で矢崎の唇の触れたお猪口を拭く。甘いさっぱりとした冷たい酒が喉を通る。
ふいに矢崎が左手を真由香の太ももに置いた。
ビクリ、と見る見る鳥肌が立つのを真由香は感じる。矢崎は無言で手酌しながら、左手で太ももを擦りだした。

真由香は正座しているのだが、座るとワンピースの裾は膝から10cmくらい上になる。
矢崎が撫でることによって、少しめくれる形になり、ミニスカートのように真由香の太ももが露わになった。
ストッキングを穿いてない生足のすべらかな感触に、矢崎はぞくぞくするような思いだった。
何という滑らかな肌だ。色も透けるように白い。平均的な体系だが、ムチムチとした太ももは母親としての逞しさを感じさせた。

無言で俯いている真由香に気をよくして、さらにスカートの中に手を入れようとしたとき、手の甲に何か滴る感触があった。
ふと見ると、真由香はキッと眉を凛々しくも上げたまま、ぽたぽたと涙を流しているのである。
その表情は、哀しい顔とかそういうものではなく、まっすぐに前を向き、清々しささえ感じさせるものだったが、涙の溢れ方はまさにこぼれるように、ぽろぽろ、ぽろぽろと、とめどなかった。

「おいおい、泣かんでくれよ。こっちまで気が咎めるじゃないか。」
矢崎は少しおどけたような口調で、そんなに嫌なら無理しなくていいんだぞ、と言う。
「全部、旦那に話すか。」
そう言われて、真由香は、はっとするのだ。
「大丈夫です。ただ自然に涙が出るんです。逆らってるわけじゃないです。」
真由香はきっぱりとそう言う。最初から感じていたが、この女は中々芯が強いと矢崎は思った。

普通の女性ならメソメソしたり、暴れだすところかも知れない。真由香は涙は流しても、声には凛として覚悟を決めたような響きがあるのだ。
「旦那にどうしても知られたくないのなら、むしろ俺には感謝してもらいたいくらいなんだ。あんた、風俗嬢にされるとこだったんだぞ。
一晩、何もかも忘れて俺のものになれば全部解決するんじゃないか。」
矢崎は、実に優しげに諭すように言いながら、しかし口調とは裏腹に、ゆっくり真由香の白いシフォンのスカートの中に手を入れていく。
  1. 2012/12/27(木) 19:22:22|
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悪魔のささやき25

[5180] 悪魔のささやき25 ナオト 投稿日:2008/11/12 (水) 19:53
大手食品メーカーのクリスマスキャンペーンの概要をディレクターの高橋が説明している。
会議の席には貴彦の他、企画部長を始めスタッフ十人ほどが耳を傾けていた。
「それでは顧客リサーチの資料について、佐々木さんからお願いします。」
高橋が貴彦の名前を呼ぶ声にすら、気が付かなかった。

朝から貴彦の頭の中は真由香と矢崎のことで占領されてしまっている。
すでに賽は投げられたのだと何度も自らに言い聞かせるのだが、時間が経つにつれ「今なら間に合うのでは」と心の声が叫ぶのである。
さっきから携帯を握り締めて、真由香の携帯番号を表示させている貴彦であった。
「佐々木さんっ」
ふと顔を上げると、全員が怪訝そうに貴彦を見つめていた。


ビルを出て、二人は夕方の新宿を歩いていた。
矢崎はカーキ色のパンツに、黒のシャツの裾をだらしなく外へ出して、足元は今日もサンダルだった。
真由香は水商売風の女性にはとても見えず、矢崎と並んで歩く姿は実に不釣り合いな感じで、時々通り過ぎる人が振り返った。
路地を少し入ったところの、ひなびた小さな寿司屋に二人は入った。
カウンターと狭い座敷席だけの店内には、痩せて頭の剥げた職人が一人いるだけだった。

「オヤジ、二階空いてるな?適当に握ってくれ。あと、生を二つな。」
「へい。」
古色蒼然とした店の雰囲気に、真由香は自分が悪夢の中を彷徨っているような錯覚さえ覚えるのだった。
ギシギシと音をたてる古い民家のような階段を上ると、四畳半ほどの部屋に丸いテーブルがあり、部屋に似合わないサッシの窓から、遠くに都庁ビルが少しだけ見えた。

「どうしたんだい、いつまでも突っ立ってないで、座りなよ奥さん。」
脅えた表情で立ち尽くす真由香にそう言うと、矢崎はどっかとテーブルの前にあぐらを組んで座り、マルボロに火をつけた。
真由香は部屋の隅に、腰をかがめてようやくしゃがむのだが、腰を下ろすまでいかないほど、緊張している様子だ。
「そんな隅っこにいないで、こっちこっち。」
矢崎がニヤニヤしながら、テーブルを叩いて手招きする。
いつまでもじっと見つめている矢崎に堪えかねるように、真由香はようやくテーブルの前に座った。

悲哀に満ちた真由香の表情を覗き込むようにしながら、矢崎は念を押すように言った。
「奥さん、分かってるな。俺はあんたのために500万払ったんだ。
それを一晩で忘れてやると言ってるんだ。今日一日は俺の妻になってくれなきゃ困る。」
俺の妻、という言葉に真由香の表情は引きつり、憎悪に歪んだ瞳を矢崎に向ける。
反抗的な眼差しを楽しむかのように、矢崎は続けた。
「なんだ、まだその気にならないのか?やめるか?
この携帯でいつでも旦那にメール出来る。見てもらって正直に話すか。」
真由香は、はっ、とした表情になり「ま、待ってくださいっ。」と声をあげた。

昨日一日、いや今日もギリギリまで真由香は考えた。全て正直に貴彦に話せば分かってくれないか。
カウンセリングと言われて、こんな写真を撮られた、、そう言えばいいではないか。
他人から見ればきっとそう思うだろう。
しかしこれは、貴彦と愛を育んできた、たくさんの思い出を作ってきた真由香にしか分からない感情だ。貴彦ならおそらく許してくれるだろう。
それでも、彼の心の中で、自分という存在が変わってしまうのが恐かった。
どんな理由があれ、あんな写真は貴彦にだけは見られたくない。

階段からギシギシ音が聞こえ、「失礼します」とビールを持ってさっきの店主が入ってきた。
刺身と生ジョッキを置くと、陰気な声で「ごゆっくり」と出て行く。
「もう一度聞くが、今晩は俺の妻になれるか、どうなんだ?」
真由香は俯いたまま、唇をかみ締めるようにしている。
しばらくの沈黙の後、真由香は消え入るような声で言った。
「、、なります、、。」
矢崎はようやくひとつ目的を果たしたように、細い目をさらに細くして黄色い歯を見せる。
「口ばっかりじゃなく、あんたの態度次第ではすぐに契約を打ち切るからな。
それが嫌ならしっかり心入れ替えることだ。」
絶望的な気持ちで真由香は矢崎のダミ声をぼんやり聞いていた。

まずは乾杯といこうや、とジョッキを手に取ると真由香を促す。
震える指先で何とかジョッキを持つと、「奥さんから音頭取ってもらおうか」と意地の悪い言い方をする。
何も言えず黙っている真由香に、
「ほら、ビールがぬるくなっちまうだろ、二人の夜に乾杯、とか何とか。」と笑うのだ。
怖気の震う言い草に、しょうがなく小さな声で、
「乾杯、、」とジョッキを合わせた。
矢崎はゴクゴク喉を鳴らしてビールを流し込むと、
「ここの店は汚ねーけど、なかなかいけるんだ。」と刺身をつまみながら、
「真由香も遠慮なく食え。」
と初めて呼び捨てにした。
  1. 2012/12/27(木) 16:41:02|
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悪魔のささやき24

[5140] 悪魔のささやき24 ナオト 投稿日:2008/11/07 (金) 11:48
mmさん、ネットワークさん、ろんさん、Yさん、ジャンクさん、CANDY♪さん、ありがとうございます。


貴彦は、塩分控えめの青椒肉絲を味わいビールを流し込む。
傍らの真貴が「はい、どーじょ」と、貴彦に自分の皿のプチトマトを差し出すのを、
「お、パパにくれるの?うれしーなー。」と言って頬張る。
「真貴ちゃん、やさしーねー?パパ嬉しいって。」
真由香はニコニコしながら真貴にそう言って、グラスにビールを注いでくれる。
真由香の注いでくれるビールは、どんなビアホールの生ジョッキより旨い。こんな幸せに恵まれながら、自分は何という男か。
今日、真由香が矢崎と会って来た痕跡を探している自分に呆れてしまうのである。

真由香はいつもと変わらず明るかった。昼間はこの真貴をどこかに預けたのではないのか。
そんなそぶりも見せない。やはり、矢崎の呼び出しなどに応じなかったのだ。
真由香があんな怪しい男に簡単に騙されるはずない、とどこかホッとした気持ちにもなるのである。
しかし貴彦が食事を終わって居間のソファに横たわり、テレビのナイター中継を見ている時、のん気な考えは一気に吹っ飛んだ。

「ね、貴ちゃん。」
うとうとしかけた目を向けると、真由香がいつになく神妙な顔つきで立っている。
「この前偶然友だちと会って食事したことあったでしょ。」
「うん。」貴彦の心臓がドクンと音をたてた。
「彼女、知り合いと温泉行くつもりだったんだけど、急にその人が行けなくなったらしいの。
今更キャンセル出来ないし、お金はいらないから一緒に行ってくれないかって言うの。」

胸の辺りがキューンとする。
「そ、、そう?」
何とか平静を装って貴彦は訊いた。
「それで、いつ?」真由香の返事を聞いて、貴彦は全身の力が抜けていくような感覚だった。
「それが、急で悪いんだけど、明日なの。」

自室のパソコンの前で、貴彦はまるで魂の抜け殻のようになってぼんやり画面を見ていた。矢崎の新着メールは、たった一行の短い文章だった。


『明日、ようやく初夜を迎えられそうです。』


妄想のはずだった。単なるゲームのつもりだった。しかし、ついにそれが現実のものとなるのだ。
真由香がやられる。あの真由香が矢崎と情を結ぶのである。
どんな手段を使ったのか。何度もメールしたが、矢崎から返事はなかった。
止めなくていいのか。今全てを真由香に話し、謝れば、、。真由香は狂ったように怒るだろう。
それでもいいではないか、彼女がやられてしまうんだぞ。あんな男に。本当にいいのか?
真由香はさっきすがるような目で言った。

「ねえ、無理しなくていいんだよ。駄目なら断れるんだから。」
しかしついに、貴彦は真由香の外泊を許可してしまったのである。真由香を守る最後のチャンスを逸したのだ。
真由香が何か言いたいような、一瞬哀しい瞳をしたのを貴彦は見逃さなかった。

木曜日。渋谷駅のホームで立ち尽くしたまま、真由香は何本かの電車をやり過ごした。
もし、こんなところを貴彦に見つかったら何の言い訳も出来ない。自分はすでに箱根の温泉にいることになっている時間だからである。
それでも真由香は心のどこかで見つかって欲しいという気持ちがあった。貴彦に嘘がばれて叱られようが、それでもいい、見つけて家に連れ帰って欲しかった。
しかし、そんな偶然もあるはずがなく、刻々と指定された時間だけが近づくのである。

時計は4時30分を指していた。真由香は山手線に乗り、ついにあの男の元へ走り始めたのである。
必要のない旅行バッグが空しかった。デパートの物産展で箱根土産まで用意したことも情けない。
昨日の夜、自分からベッドで貴彦に抱きついた。貴彦はいつもより強く抱きしめてくれた。優しいキスをくれた。
でも、それ以上は求めてこなかった。もう随分と愛し合っていない。きっと、仕事のことで頭がいっぱいで疲れているのだろう。それなのに自分は。
(ごめんね)貴彦に抱きしめられながら、何度も心の中で呟いた。

ドアを開けて俯いて立っている真由香を見て、矢崎はため息をついた。
「ほおっ。」
真由香は白地に控えめな模様をあしらったシフォンのワンピース姿だった。膝より少し上までの丈が、真由香の愛らしさを強調している。
今までパンツ姿しか見ていなかった矢崎は、ワンピース姿の真由香に改めて見とれているのである。実は昨日の帰り際に矢崎が指示したのだ。
「あ、そうそう、奥さん。明日来てくれるとしたらスカートでお願いしますよ。出来ればミニがいいんですが、ま、贅沢は言いません。」

ミニではなかったが、約束を守ってくれたことに矢崎はほくほくした顔で、
「いやあ、可愛らしい。まるで、どっかのお嬢さんみたいだな。」と言うと、真由香の鞄を事務所に置いて、さっそく行きましょう、と、ドアに鍵をかける。
矢崎の顔も見れない真由香は背中に手を沿えられ、今降りたばかりのエレベーターの方へ連れられるのだ。
  1. 2012/12/27(木) 11:33:45|
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悪魔のささやき23

[5103] 悪魔のささやき23 ナオト 投稿日:2008/11/03 (月) 14:44

暴力団だの裏DVDだのといった身の毛のよだつような単語に、得体の知れない矢崎にすら、すがりたい気持ちになってしまう真由香だった。
「お、、お願いしますっ、こんな写真今すぐ削除してください!」
矢崎は黙ったまま、ペットボトルのウーロン茶を飲んでいる。
「話がつきそうって、どういうことでしょう。お金ですか?」
真由香が涙目でそう訴えると、矢崎はほくそ笑むような細い目で睨み返し、馬鹿にするような口調で言った。

「奥さん、暴力団を甘く見ちゃいけません。」とマルボロに火を付けると、
「奴らも一主婦に自由になる金なんてたかが知れてるのは分かってます。
風俗で働かせるのが一番効率的だ。とくに奥さんのような美人ならね。」
風俗、、真由香は寒気がした。自分とは縁のない世界だと思っていた言葉が次々と出てきて、足元から力が抜けていくのである。

「素人主婦で美人の貴女ならば、高級会員店で月200万は稼げる。いや、その気になれば300万だっていける。
二年もやってりゃ五千万近くの売り上げになるんですよ。そんな金、用意できますか?」
真由香は慄然とした表情で聞いていたが、思い出したように怒りが湧いてきた。
「だ、だいたい貴方があんなことさせなければっ。貴方のせいですっ。」
狭く湿っぽい事務所内に響き渡るような声で、真由香は食い掛かったのだが、矢崎はまるで緊張感のない様子で、苦笑いまで浮かべながらポリポリと頭を掻くのである。
「いやあ、その点に関しては責任感じてます。めんぼくない。」などと、
おどけた調子で手を合わせるのを見て、真由香はギリギリと奥歯をかみ締めながら、握りこぶしを震わせるのだ。

「ですから、そのお詫びと言っては何ですが、私はこう見えても財界にも顔が利くんです。」
矢崎のセリフに、それまで怒りに歪んでいた真由香の瞳に少しだけ光が戻る。
「色々と手を回して、彼らからこの件は手を引かせました。」
「ほ、本当ですか?」
真由香は身を乗り出して声を上げる。
「しかし、出費は当然かかりましたし、あくまで案件を彼らから譲り受けたまでです。」
何か奥歯に物の挟まったような言い方に、安心しかけた気持ちが再び揺らぐ。

「どういうことですか?は、はっきりおっしゃってください。」
矢崎は煙草をもみ消すと、じろりと真由香を見つめながら、
「500万で貴女を買ったんです。ま、私だからそれで済んだとも言えますがね。」
などと、平然と言ってのけるのである。

貴女を500万で買った、という矢崎の言葉がいつまでも真由香の頭の中で反芻されていた。
いったいこの男は何を考えているのか。自分の未来を暗い壁で塞がれたような気分で、言葉も出ない。
「ご、500万…!、そ、そんな大金、今すぐには無理ですが、、でも、何とかローンとかなら、、」
真由香の言葉をさえぎる様に矢崎が片手を上げる。
「奥さん、言いましたよね。私だから500万で済んだんです。勘違いされては困る。」
そこまで聞いてもなお、自分の置かれた状況というものを真由香は理解出来ない。

「いいですか、私の気持ちひとつで、貴女を一千万で売ることだって出来るんです。
需要があるということですから、ある意味、貴女はラッキーでもあるが。」
「わ、、分かり易く言ってください。さっぱり意味が分からないですっ。」
矢崎はクレーターの浮かんだような頬にニンマリと笑みを浮かべ、
ようやくこの時がきた、という風情で告げた。

「私は貴女を一目見たときから惚れちゃいましてね。」
真由香は身体から、さーっと血の気が引くのを感じた。瞬間的にこの部屋の空気を吸うことにすら嫌悪を覚える。
「貴女の選択肢は二つです。写真を旦那さんに見られるか、それとも、
、、私と一夜を共にするか。」
ひどい、、矢崎の言葉が終わるや否や真由香はそう呟く。
「貴方は占い師の方ですよね。少なくとも神様とかに通じる仕事をされてるのではないですか。恥ずかしいと思わないんですか!」
未だに矢崎を天城蒼雲と疑わない真由香が滑稽である。
「私も人間です。人を好きになることは自然の摂理でもある。」

真由香はすごい勢いで目の前のパソコンを引き寄せた。
『真由香フォルダ』をゴミ箱に消去し、額に汗を浮かべながら矢崎を睨む。
「そんなことしても無駄です。そのファイルはいくらでもコピーしてある。貴方次第では今すぐご主人の会社にメールで送ることも出来ますよ。」
ま、男性と飲み歩いたり、キスしたり、あれを握っても平気な旦那さんなら別ですが、
と矢崎は煙草に火をつけ、
「一晩考えてください。オーケーなら明日夕方5時までにここへ来ること。
来なければ、その時点でご主人にメールします。」

泊まりになりますから、うまいこと理由考えてくださいね、と言う矢崎のダミ声が、呆然とした真由香には、どこか遠くから聞こえるような感覚だった。
  1. 2012/12/27(木) 06:31:40|
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悪魔のささやき22

[5070] 悪魔のささやき22 ナオト 投稿日:2008/10/30 (木) 21:52

矢崎の言葉に驚愕するが、とてもにわかには信じられない。だいたい写真は誰が撮ったのだ。
「で、でも、、あんな写真を撮ることが出来るのは、貴方たちくらいしかいないじゃないですかっ。」
「これは心外ですねえ。私は奥さんのためを思ってカウンセリングしてあげたのに、まさかそんな疑いをかけられようとは。
それに今時カメラなんてどこにでも仕掛けられます。ピンホールカメラなんかもありますし、暗くても十分撮影も可能ですよ。」

どこか薄笑いを浮かべたような言い草に、真由香は憤然とした思いが込み上げて何と言い返していいか分からなくなる。
貴方の言うことなど、信じられるものか、と言おうとしたとき、矢崎は何か含みのあるような話しぶりに変わった。
「ただねえ、奥さん、私も心当たりがない訳じゃないですよ。これでも結構あの辺りでは顔が利きまして。」
私の一存で犯人を割り出して、口を封じることが出来るかも知れない、と尤もらしいことを言うのである。

「は、、犯人の心当たりがあるとでも言うんですか?」
「まあ、あのカップル喫茶に出入りしてる連中はだいたい分かりますから。」
矢崎の言葉など、決して鵜呑みにはしない真由香だったが、かと言って他にどうすることも出来ない。
とにかく、あんな写真を貴彦に見られるのだけは避けなければならないのだ。

「おねがいですっ。写真を主人に見られたら困るんです。」
矢崎は待ってましたとばかり、真由香に告げるのだ。
「分かりました。何とかしますので、とりあえず、明日こちらまで来てもらえますか。」


水曜日。
真由香は約束の午後1時に新宿の天城鑑定室に着いた。
これは罠なのではないか、という不安は当然あった。しかし住所まで知られている以上、じっとしているのは余計に恐怖だった。
真貴は自由が丘にある託児所に預けた。貴彦の実家に頻繁に預けるのも気が引けたし、何より貴彦に理由を言えないからであった。
結婚以来、貴彦には何でもガラス張りにしてきたのに、こんな風に隠し事をしなければならないのは、心が痛んだ。
そして、娘の真貴に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

雑居ビルの中の、相変わらず薄暗いじめじめとした廊下を歩いた先に、天城鑑定室があった。
「どうぞー。」ドアをノックすると忌まわしいダミ声が返ってくる。
天城、いや矢崎はドアを開けたすぐの応接セットのソファに腰掛けていた。
メーカーロゴの入った黄色いくたびれたポロシャツに、脛のあたりまでの丈の白いパンツは、一瞬俗に言うステテコのように見えた。
足元はサンダル履きで腕には金色のロレックスが光っている。
年甲斐もない茶色の短髪がまるでチンピラそのものといった感じで、会うたびに品がなくなっている気がした。

「どうぞ、お掛けください。」
貧乏ゆすりをしながら、にやついた顔で真由香を手招くと、ペットボトルのウーロン茶をゴクゴク飲んでいる。
真由香はソファに座らず、緊張した面持ちで立ったまま、矢崎に向かって言った。
「私は貴方を信用してるわけじゃありません。正直、疑っています。もし、変なことをしたら警察を呼びますので。」
「心配しなくても、犯人のメボシは付きました。まあ、僕の顔で何とかもみ消すことは出来そうですよ。」

矢崎の言葉に真由香はすがるような表情になる。
「お願いします!写真は絶対主人に見られたら困りますっ。」
矢崎は、まあまあ、と真由香になだめるような口調で、
「とにかくじっくり話しましょうよ。」とソファに腰掛けるよう促すのだ。
「犯人が分かったとおっしゃいましたけど、どうして私の住所や氏名まで分かるんですか?ちゃんと説明してください。」

ようやく腰掛けた真由香は、激しい声で矢崎に問いかける。
「僕も知らなかったんですが、実はあの中華料理店は一月前に暴力団に買収されてましてね、どうもそこの店員が一枚かんでいるようなんです。」
暴力団という言葉に真由香の表情が見る見る青ざめていく。
「ほら、あの時金沢がどうのこうのって話、してましたよね?
今は情報社会ですから、金沢、真由香、というたった二つのキーワードでも色々調べる奴だっているわけなんです。」

真由香の膝が小刻みに震えているのを、チラリと横目で見ながら矢崎は立ち上がると、ソファの隅に置いてあったノートパソコンをテーブルに乗せた。
矢崎は何やらキーをしばらく打っていたと思うと、パソコン画面をくるりと真由香の方に向けた。
「そこにあるファイルをクリックしてみて下さい。」
画面にはあろうことか『真由香フォルダ』なるものが存在し、真由香jpg1から真由香jpg20までファイルが入っている。

ファイルを恐る恐るクリックすると、案の定見覚えのある写真が表示された。
真由香に送られてきた五枚の他、ルミとキスしているものや、どさくさに紛れて大田が真由香の胸の辺りを触っているようなもの、
しな垂れかかるように大田に寄り添ってレジの前に立つ真由香の姿などがあった。
真由香は怒りと恥ずかしさで顔面を真っ赤にしながらも、冷静になろうと必死だった。

中華料理店は今の説明で納得いくとしても、あの店のテーブル下の写真だけはどう考えてもおかしい。
ひとつでも矛盾があれば全てが出鱈目ということになるのだ。
「実はその暴力団というのが、中田組と言いましてね。
あのカップル喫茶は運の悪いことに中田組のチェーン店なんですよ。」
何でも、店で隠し撮りしたものを裏物のDVDなどで販売している、などと矢崎は続けるのだった。
  1. 2012/12/26(水) 19:30:51|
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悪魔のささやき21

[5055] 悪魔のささやき21 ナオト 投稿日:2008/10/28 (火) 20:48

貴彦が炎天下の公園で矢崎のメールを思い出しているその頃、真由香はベビーカーの真貴を連れて買い物から帰ってきた。
ポストに真由香宛てのメール便が入っていた。差出人にはナイトエレガンスとある。
覚えがなかったが、どうせダイレクトメールまがいのものだと思った。
玄関のキーを開けて、眠ってしまった真貴をベッドに寝かせると、メール便の封筒は台所のテーブルに置いたまま、買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。

料理好きの真由香の頭の中ではすでに今夜の食卓がイメージされていた。
貴彦の好物の鶏の唐揚げ、葱をたっぷりまぶしたマグロのたたきに、栄養バランスも考えて茄子の煮物と和風サラダも添える。
下準備にかかる前に、喉が渇いたので麦茶をコップに注ぎ、ゴクゴク音をたてて飲んだ。
昨日は酔っているのにあまり眠れなかった。
帰宅して、玄関で貴彦の顔を見た瞬間、泣きそうになった。シャワーを浴びながら泣いた。
今更ながら自分は迂闊だったと思う。もう二度と天城のところへは行かない。

コップを置いて、テーブルのメール便に目が止まった。
封筒の上を丁寧にはさみで切ると、一枚の紙で折りたたむように、数枚の写真が出てきた。
写真を見た瞬間、真由香の身体が凍りついた。
写真は全部で五枚入っていた。いずれも真由香自身が写っている。

あの中華料理店で、大田に密着したまま、真由香がビールを大田のグラスに注いでいるもの。
大田に抱きかかえられながら、笑顔になっているもの。
そして大田の頬に真由香がキスしているもの。
そして、大田に寄り添いながら、あの店に入る場面。その店の看板を見て驚愕する。
まったく気づかなかったが、そこには『カップル喫茶あばんちゅーる』とはっきり書いてある。
そして何より衝撃を受けたのは、真由香が大田の男性器を握っている写真だった。
テーブルの下から撮られているようだった。顔は見えないが、服装で真由香と分かる。

写真を持ったまま手足が震えてくる。テーブルの上に写真を投げつけた。いったい誰がこんなことを…。
天城の仕業か、それとも大田?
そうだ、昨夜トイレへ行くと言ってそのまま帰ってしまったことを根に持っているんだ。そうに違いない。
恐怖感が真由香を襲い、誰かが見ているような気がして部屋をきょろきょろする。
頭が真っ白のまま、しばらく動けなかった真由香だが、写真を包んでいた紙切れに何か書いてあるのに気がついた。
下手くそな字でそこにはこう書かれていた。


『佐々木真由香さん、
人妻さんなのに随分と大胆ですね。
これを旦那さんが見たら、どう思うでしょうか。』


真由香の額を冷たい汗が流れた。メール便で送られて来たということは、住所も知られている。どう調べたのだ。
そして、これは脅迫ではないか。しかし、封筒の中をもう一度確認しても、それ以外何も見当たらないし、紙切れの文章もその三行だけだ。
何の要求もないことが、かえって不安な心を煽られる。天城か大田か、どちらか、いや二人は共謀しているのかも知れない。
しかし、中華料理店での写真は天城の肩も写っているので天城や大田、そしてルミが撮ったものではないことが分かる。
第三者がいたのだろうか。

真由香は完全に動転していた。とにかく天城に電話してみよう。
自分の苗字を知っているのはあの男だけだ。きっと何か関係しているに違いない。
置き電話の前まで来て、一瞬ためらった。理由もなく不吉な予感がした。少しの間のあと、震える指で携帯番号をプッシュした。
三度目のコールで、生理的に受け付けない、あのダミ声が返ってきた。
「はい、天城鑑定室ですが。」

「あ、あの、、私、佐々木といいますが。」
真由香が震える声で言うと、電話の向こうの声は何かしらばっくれた調子だった。
「佐々木さん?」
「は、はい、、昨日はどうも、、」
今すぐに大声で問いかけたい気持ちだったが、やはり得体の知れない恐怖心から気持ちがすくんでしまう。
「あー、真由香さんですか。昨日はどうしちゃったんですか?いきなり消えちゃうから心配しちゃいましたよ。」

いかにもわざとらしい口調に聞こえ、真由香は苛立ちを隠せなくなる。
「写真のこと、知ってるんですよね?」
毅然とした声で、真由香はいきなり本題を切り出す。
「写真?」何のことですか?と矢崎は問い返す。
「とぼけないでください。昨日私が勝手に帰ったから根に持ってるんですか?!」
そこまで言ってから、真由香は重大なことに気がついた。
写真はすでに撮られていたのだから、帰ったこととは関係ない。
言いたいことは山ほどあるのに、頭が混乱して理屈が通らない言葉になってしまう。

「おっしゃってることがよく分かりませんな。写真だとか、根に持ってるとか。」
自分の苗字まで知ってるのはこの男だけだし、あのいかがわしい店のテーブル下で撮影するにもこの男が関わっていなければ不可能だ。
真由香は全て真正面から話すしかないと、心を決める。
今日メール便で、どんな内容の写真が送られてきたか、そしてどんなメッセージが書いてあったかを直接矢崎にぶつけた。
「そりゃ、ちょっと厄介なことですねー。」
矢崎は神妙ぶった声で続ける。
「実はあの近辺で最近よく耳にするんですよ。不倫カップルに狙いをつけて金をふんだくる奴がいるってね。」

  1. 2012/12/26(水) 16:15:01|
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悪魔のささやき20

[5014] 悪魔のささやき20 ナオト 投稿日:2008/10/25 (土) 00:16

火曜日。
貴彦はアートディレクターとともに、ロケハンで都内の公園に来ていた。
さすがに真夏の昼間、外仕事はきつい。
年下のディレクターがデジタルカメラであちこちを撮影しているのを眺めながら、貴彦は木陰のベンチに座った。
偶然にもこの公園は、あの矢崎と初めて会った場所だ。今掛けているベンチの、隣りだった。
貴彦は昨日の夜のメールを思い出す。


『佐々木さん、まいど。^^
今日は奥さんと楽しい食事をさせて頂きました。
残念ながら、まだそういう関係にはなってませんが、
リミットの日曜日までには何とかしますので、期待してお待ちください。
必ずいい報告が出来ると思いますので。

それにしても、さすが真由香さん、固いっすねー。(^_^;
こっちもやりがいありますよー。
あ、それから明日なんですけど、昼間たぶん真由香さんを借りることになります。
夕方には戻してあげられると思いますが、よろしくお願いしますm(_ _)m』


真由香を借りる?どう借りるつもりだ。
不安とともに矢崎の挑発的な態度に怒りも湧いてくる。何が、まいど、だ。
夕方には戻してあげられる、だと?
真由香はOL時代、隠れファンがいるほどだった。そんな多くのライバルの中、貴彦が熱烈なアタックをして射止めたのだった。
(…お前など、普通だったら真由香と関わることすら出来ない野郎なんだ、、)

心の中で矢崎に毒づきながらも、それに反して狂おしいような反応を見せる自らの情欲を呪うのである。
そもそも自分から仕掛けたこととはいえ、貴彦は日増しに暗澹たる不安が心の中でどんどん肥大していくのを感じていた。
真由香を落とすことなど出来るはずがない、という楽観した気持ちが揺らぐにつれ、最近は仕事も手に付かなくなってきている。
かと言って、真由香に打ち明けることなど出来るはずもない。もはや後戻り出来ないところまで進んでしまったのである。

本当に真由香がやられてしまったら、自分はどうなるのか。貴彦は正常でいられる自信すらなかった。
矢崎は明日、どうやって真由香を再び誘うつもりか。メールでの問いかけに対し、矢崎からの返答はなかった。
昨日の食事で何かあったに違いない。真由香がそんなに軽い女でないことなど、誰よりも貴彦は知っていたからである。

「佐々木さん、大丈夫っすか?」
顔を上げると、ディレクターの高橋が缶コーヒーを片手に心配そうな表情で見ていた。
「どーぞ。」貴彦は、サンキューと言って缶コーヒーを受け取ると額に当てた。
「最近、疲れてるんじゃないすか?ぼーっとして佐々木さんらしくないっすよ。」
人のいいこの28歳の有能な男は、年下なのに何かと頼りになる。

「お前、まだ結婚しないの?」
「彼女いないっすよ。それに、今の忙しい状況じゃそういう気にもなんないです。
佐々木さんの奥さんみたいな美人だったら結婚もいいかな、とか思いますけど。」
屈託のない笑顔で言うと彼はコーヒーを飲み干し、再びデジカメで撮影を始める。

誰からも羨ましがられるその妻を、他人に寝取られるまでのカウントダウンが、すでに始まってるんだ…。
高橋にそう言ってしまいたい気持ちで撮影の様子をぼんやり見ながら、貴彦は甘い缶コーヒーをごくりと飲んだ。

  1. 2012/12/26(水) 11:14:03|
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悪魔のささやき19

[4999] 悪魔のささやき19 ナオト 投稿日:2008/10/22 (水) 22:38

「ま、、待ってください。」
真由香はギリギリのところで握りこぶしを作ってルミを静止した。
「さっきからトイレを我慢してるんです。もう限界なんです。トイレだけ先に行かせてください。」
真由香の冷静な判断だ。もうこの男の言うことなど聞く気はなかった。ここは一旦従順に振舞うように見せかけたのである。
矢崎はしばらく真由香の目を見ていたが、
「いいよ。いってらっしゃい。その代わりちゃんと最終試験頑張るんだよ?」と瞳に不気味な笑みを浮かべて言うのだった。

真由香は「はい」と少し沈んだ声で答えて、席を立とうとした。そのほんの一瞬、気の緩んだときだ。
真由香の手はべっとりとした熱い大田の肉根を握らされていたのだ。
あっ、という真由香の短い叫びと、「離すんじゃない!」という矢崎の鋭い声が交叉した。
「そのままじっとしてろ、3秒でいい!」と有無を言わせぬドスの効いたダミ声で真由香を凍りつかせたのである。
ついさっき真由香を震え上がらせた鬼の形相で睨まれ、真由香はすくんだように一瞬固まってしまう。

時間が止まったような空気のあと、ニンマリと表情を変えた矢崎が声をかける。
「もう、いいよ。真由香ちゃん、トイレ行っといで。」
真由香は目に涙をためて、ふらふらとよろめく身体で逃げるように席を立った。


矢崎、大田、ルミの三人はカクテルから水割りに変えて再び飲み始めていた。真由香が席を立ってすでに30分を過ぎていた。
「いやあ、それにしても今度のは上物だな、矢崎。」
大田は上機嫌で赤ら顔をさらに赤くして、唾を飛ばしながら品のない笑い声を出す。
「今度のは、ってヒドイっすよ、大田さん。まるでいつもロクでもないのしか連れてこないみたいじゃないっすか。」
矢崎の口調は、真由香の前でのインテリぶったものとは異なり、まるでチンピラ然とした別人そのものなのである。

「周ちゃんの演技にはいつもながら感心するわ。あたし、先生って呼ぶたびに必死に笑いこらえてたんだからね。」
ルミはピーナッツをボリボリかじりながら、矢崎をからかう。
「こっちだってその周ちゃんってのが、あの奥さんの前でポロっと出ないか心配してたんだ。」
「それにしてももったいないな。あのままやっちまえたんじゃないのか?」
「いえいえ、大田さん、あせっちゃ駄目なんスよ。まあ安心してくださいよ。もう網にかかったも同然なんスから。」

矢崎は真由香がトイレに行ったまま帰ってこないことも計算済みだった。もう今頃は山手線にでも乗って渋谷あたりを過ぎてる頃だろう。
清楚な若妻といった外見に似合わない、酒臭い息を吐いて電車に乗ってる真由香を想像するだけでも嬉しくなるのである。
「どれくらいかかりそうだ?」大田の問いかけに矢崎は自信満々に答える。
「三ヶ月見といてください。いい感じに仕上げますから。」

そのやり取りがどういうものなのか、ルミは全て知っているような口調で口をはさむ。
「ねえ、その後うちの店で働かせたら?あの奥さんなら絶対ナンバーワンになるわよ。」
「おいおい、さっそくソープ嬢にスカウトか?俺は一年は囲いたいんだ。」
大田がルミに口尖らせて言うのを、矢崎はニヤニヤしながら聞いていた。


真由香が帰宅したのは、貴彦が真貴を寝かせつけて一時間ちかく経った午後十時頃だった。
貴彦は実家に真貴を迎えに言った後、勧められた食事も取らずすぐに自宅に戻った。
それからの二時間半近くが、気が遠くなるほど長く感じられた。
長くなればなるほど、狂おしい焦燥感に掻きむしられ、気がつくと股間に手が伸びてしまうのだった。

「ただいま」と言ういつも通りのはつらつとした真由香の声が意外だった。
「ごめんねー。大学の友達に偶然会っちゃったの。ちょっと酔っ払っちゃった。」
貴彦は目いっぱい平然とした声を装い真由香を迎えた。
「珍しーな。真由香が外食するなんて。ま、たまにはいいか。」
「ほんとごめんっ。明日はごちそう作るね。」と真由香は手を合わせておどけると、「真貴もう寝た?」と貴彦とは目を合わせず寝室に向かった。

すれ違い様、貴彦は息を吸い込んだ。
真由香は香水はほとんど付けないが、いつもかすかにシャンプーのような石鹸のようないい匂いがする。
今、すれ違った真由香からは、アルコールと煙草臭い匂いがして、貴彦の心臓はドクンと音をたてた。
真由香は今日、あの矢崎と食事をしてきたんだ…。信じられないような気持ちのまま、貴彦は真由香の様子に変化はないか、観察してしまう。

ベッドの真貴に布団を掛けなおしている後姿もいつものままだ。
「真貴ちゃん、ごめんねー」と言いながら娘の頭を撫でている。優しいいつも通りの自慢の妻だ。
振り返った真由香が問いかけた。
「電話したんだよ。お風呂でも入ってたの?」
「え、、ごめん、ちょっと疲れてウトウトしてたんだ、、」
胸が痛んだ。電話に出るな、という矢崎の指示があったのだ。

真由香は疑いもせず両手でウチワを扇ぐような真似をしながら、
「シャワー浴びていい?汗かいちゃった。」
と浴室にパタパタ、これもいつもの早足で消えた。
何も変わってない。
いつもの、普段どおりの真由香だ。
嘘をついて矢崎と食事をしてきたのに、まるでいつも通りの真由香を、複雑な気持ちで貴彦は見送った。

いや、食事だけなのか?あの矢崎のことだ。何をしたか分かったものじゃないのだ。
浴室からシャワーの音がするのを聞きながら、貴彦は自分の部屋のパソコンに向かった。
新着メールが矢崎から届いていた。
  1. 2012/12/26(水) 06:43:09|
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