妻と男の物語


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悪魔のささやき13

[4834] 悪魔のささやき13 ナオト 投稿日:2008/10/03 (金) 22:35

こんな高級料理を食べるのはずいぶんと久しぶりだった。これが、貴彦と真貴と三人ならどれだけ美味しいことか。
テーブルの上の伊勢海老や、鱶鰭のスープ。燕の巣といった高級料理を眺めながら、真由香は貴彦たちが今晩何を食べたのか、そればかり考えていた。
味がほとんど分からなかったのは、他にも理由がある。
さっきから大田がやたらベタベタと真由香の身体を触ってきているのだ。

初めはふざけて手を握ったり、肩に軽く手を回したり程度だったのだが、真由香が何も言わないのをいいことに、だんだんと露骨になってきている。
腰のあたりから、臀部にすっと降ろしてみたり、太ももに乗せた手を内側に軽く滑らせたりもする。
一方向かい側では、天城…矢崎にしなだれかかるように寄り添った女が胸を押し付けたり、箸で矢崎の口に料理を運んだりと、場末の飲み屋のような品の無さだ。
矢崎と大田の会話も実にくだらない内容ばかりで、競馬で大穴を当てた話や、どこかの三流芸人が自分と遠縁に当たるだの、果ては東南アジアの女性の性癖を大笑いしながら語ったり、
聞いているこちらが恥ずかしくなるほど低俗で、早くこの場から解放されたい気持ちで真由香はいっぱいだった。

「どうしたの真由香ちゃん、飲みが足りないな。」
大田は酒臭い息を吐きかけながら、真由香のグラスにビールを注ぐ。家ではコップ二杯で充分な真由香もすでに大分酔ってきていた。
これ以上はやめておいたほうがいい。
「いえ、私はもう十分なんで、、」やんわり断る真由香だったが、ビール瓶を差し出したまま
「ほら、ぐいっと。」とグラスを空けるのを促されると、しかたなく喉に押し込むしかなかった。

「真由香ちゃんはまだまだ素人なんで、大田さん色々教えてあげてくださいよ。」
矢崎は大田に向かってそう言うのだが、眼鏡の奥の鋭い目は真由香に向けられている。
「いやー、そうだったね。社交場でのマナー、これから覚えていかなきゃね。」
大田は嬉しそうに言いながら真由香の手をそっと取ると、自分の太ももの上に乗せる。

「だめよ、真由香ちゃん、もっと寄り添ってあげなきゃ殿方に失礼よ。」
矢崎の隣りの女がふいに真由香に声をかける。矢崎の身体にいっそう乳房を押し付けるように密着すると、片手で箸に春巻きを取り、矢崎の口元に持っていく。
「ねぇ真由香ちゃん、私みたいにやってみて。はい、先生アーン、、」
女の差し出した春巻きを矢崎は嬉しそうに頬張る。
「だめよ先生、まだ食べちゃ。ルミにも半分ちょーだい。」と言うと、矢崎の口から半分飛び出したままの春巻きに女は口を付けるのだ。
まるで王様ゲームでポッキーを両側から食べる要領で、二人の唇が触れ合い、ケラケラと笑い合っている。

真由香は唖然とした表情でそれを見つめながら、恐怖心のようなものが湧き上がるのを感じていた。
普段の自分の生活とはまるでかけ離れた破廉恥で不快な空気。何か悪い夢を見ているようだった。
大田が真由香の肩を引き寄せて、ルミという女性と同じように密着させるに至って、ついに真由香は我慢ならなくなり、立ち上がろうとした瞬間、矢崎が言葉を発した。
「そうそう、真由香ちゃんの旦那さんは広告代理店に勤めてるんだよね。」

えっ?という表情で真由香は矢崎を見る。何故そんなことを暴露するのだ。
「ITVエージェンシーだっけ?あまり営業が上手くいってないんだよね。大田さんに協力してもらったらどう?」
真由香はうろたえた。社名まで出すとは何という無神経さだ。矢崎を睨むとニヤニヤしたまま煙草を口にくわえている。ルミがしなを作って火をつけてやる。
「へえ、ITVさんですか。うちはあまりご縁がなかったんですが。なるほど、このご時勢ですから、営業さんも大変でしょう。」
大田は腕で真由香を自分に密着させておきながら、さも紳士ぶった声で言う。

「大田さんでしたら、口利きのひとつもお出来になるんじゃないですか?あ、ちなみに、旦那さんにはスナックに勤めてるのは内緒みたいなんですが」
矢崎の無遠慮で大きなお世話に、真由香は怒りが込み上げてくる。すると大田は矢崎を諭すように言った。
「いやいや、天城さん、分かりました。これも何かの縁でしょうし」
大田は優しげに言うと、自分の太ももに乗せられた真由香の手に、そっと手を重ねながら、ぜひ一度大田を訪ねるようご主人にお伝えください、と言うのだ。
「いえ、あの結構です。あたし、そういうつもりじゃ…」真由香はあわてて断る。

矢崎には強かな計算があった。いくら貴彦の為とはいえ、破廉恥な大田の力を借りようなどとは真由香は思わないだろう。そういう女性であることは見抜いていた。
それよりも矢崎の目的は別のところにあった。
貴彦と大田の接点をチラつかせることによって、真由香はいやでも嘘を突き通さなければならなくなる、と読んだのである。
いくらカウンセリングという口実があるにせよ、スナックの店員を演じていたことなど、真由香は貴彦に知られたくないはずだ。
おそらくこれで真由香は、この茶番に最後まで付き合わざるを得なくなるだろうと、矢崎は余裕綽々でビールをゴクゴク飲み干すのである。
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