妻と男の物語


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桜の咲く時(4)

[714] 桜の咲く時(4) 雨ちゅあ ◆wlX16g 投稿日:2004/11/06(Sat) 10:14
 さやかが第一会議室に向かった後、聖美はここで黒田に犯されることを覚悟していた。だが、その予想とは裏腹に、黒田は聖美に襲いかかってくるどころか、言葉通り、聖美から詳しく話を聞き出すだけであった。
 さやかの日頃の性格や家庭内での行動、さやかの成績、さやかへの家庭での教育、聖美と賢一との教育方針の違いや、賢一の仕事のこと、それにさやかの交友関係や男性遍歴についてまで尋ねられた。そんな事、何の関係があるものかと心の中では思いながらも、先ほどまでは犯される事を覚悟していた身。つい安心感が先走ってしまったのと、それでもなお黒田に逆らうことは得策にはならないと、尋ねられるままに答えてしまった。

 さらに黒田は『雲之上学園』の教育方針、教育システム、教育環境、教師陣の素晴らしさを熱く語り、とりわけ理事長の人格の素晴らしさを語った。
 『雲之上学園』に入学すると、特別な事がない限り大学までエスカレーター方式で進学できる。たとえ内部進学を選択しない場合でも、卒業生は東京首席大学や京都高官大学などの国内名門大学等に進学している。そして『雲之上学園』の卒業生はその卓越した能力と豊かな人脈を生かし、軒並み社会で成功していることをも語った。

 黒田の話の全てが聖美を狂わせた。『雲之上学園』以外にも名門と呼ばれし学校はある。だが、黒田の話を聞けば聞くほど、「『雲之上学園』以外はありえない」と思い込んでしまうほどその内容は魅力的なものだった。
 理事長がどういうわけか自分と同じような経歴を持ち、貧乏と挫折に苦しみながらも社会的な成功を収め、そして自分の経歴を見て大いに関心を抱いてくれたと聞かされたこともまた、聖美にとっては魅力的な話だった。
 何しろ今まで夫の賢一以外に理解者はいなかったのである。社会に出るまで恋人どころか友人を作る暇もなく、わずかな友人も聖美の結婚を機に、「聖美は別世界の人間になってしまったから」との理由で疎遠になってしまった。街で声をかけても冷たく無視されてしまうのである。

 そのような会話をしているうちに、およそ1時間半が経った。健康診断は検査項目が多いうえに念入りにするため1時間はかかると聞かされていたし、面接にしても30分くらいは要するだろう。
 初めのうちはさやかの安否が心配でならなかった。娘のさやかには手を出さない代わりに自分がさやかの分まで頑張ると言ったものの、およそ1時間半もかかるとの話が聖美を不安に陥らせた。

 しかし、そのような不安も、黒田が襲ってこなかったことから次第に薄らいでいき、最後には安心した気持ちでさやかの帰りを待っていた。
 そしてさらに10分くらいが経った時、さやかが応接室に戻ってきた。さやかは黒田と顔を合わせると慌てて下を向き、焦っているかのような表情をしていた。聖美もさやかの変化に気がついた。

聖美「どうだったの、選考試験。上手く言えた? 何も体に異常はなかった?」
さやか「………うん、たぶん……大丈夫だと思う」
聖美「何か……あったの?」
黒田「お母さん」
さやか「別に……何もなかった」
聖美「そう……それならいいけど」
黒田「お母さん、ちょっと宜しいですか? さやかさんはそこで少し待っていて下さい」

 聖美は黒田に応接室の外に連れ出され、第三会議室に連れ込まれた。

黒田「困りますね、星野さん。あんな事を言われたら。私の立場も考えて下さい」
聖美「しかし、さやかの様子がちょっとおかしかったもので。先生、さやかには……」
黒田「星野さん! 貴方は私が約束を破ったとでも言いたいのですか! 私は貴方たちを信用したからこそこうやって危ない橋を渡っているんだ! それなのに貴方ときたら!」
聖美「申し訳ございません、そんなつもりじゃないんです!」
黒田「いいですか星野さん、この話、まだ全部が終わったわけじゃないんです。まだまだこれからなんですよ。さやかさんの結果もまだ出ていませんしね。でも私が理事長に断りの連絡を入れたら、この話はさやかさんの結果に関わらず無かったことになるんです。貴方はさやかさんの努力を無駄にするつもりですか」
聖美「………申し訳ございません………どうか、お許し下さい………」
黒田「………もういいです」
聖美「(土下座をしながら)先生! お願いします!」
黒田「………もういいですから。今日はもうお帰り下さい。さやかさんの結果や、今後の事についてはまた連絡を入れますので」

 聖美は黒田に促され、応接室へと戻った。応接室には目を赤くしたさやかが待っていた。聖美はさやかに何かあったことを確信したものの、その場で問いただすのは諦め、『雲之上学園』を後にした。帰宅後もさやかは第一会議室での事を何も語ろうとはしなかった。むしろ、いつもと同じように明るく振舞おうとしているかのようだった。
(つづく)
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