妻と男の物語


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桜の咲く時(5)

[717] 桜の咲く時(5) 雨ちゅあ ◆wlX16g 投稿日:2004/11/07(Sun) 17:20
 いつもように昼食をとったものの、聖美は不安な気持ちに押し潰されそうになり、ろくに食べた気がしなかった。
一つは黒田を激怒させてしまったことだ。黒田の気分次第で合否が左右されてしまう。いくらさやかが心配になったとはいえ、結果としてさやかを苦しめることになってしまわないか。
もう一つは、件のさやかの様子がやはりおかしいことだ。第一会議室で何かあったのは間違いなさそうだが、さやかはいくら尋ねられても答えようとはしない。
 そしてちょうど昼食をとり終え、後片付けが終った時、聖美の携帯電話が鳴った。黒田からだった。

聖美「先生、先程は大変失礼致しました。本当に申し訳ございませんでした」
黒田「過ぎた事です……。それよりも星野さん、おめでとうございます。さやかさん、面接も身体検査も順調に済んだようで、想像以上に早く『裏口』の作戦が立ったようです」
聖美「えっ! じゃあ、さやかは合格したんですか? もうこれで大丈夫なんですか?」
黒田「決まったも同然ですけど完全にという訳ではありません。『表』から入る方々に怪しまれないように、さやかさんの合格に正当性を持たせないといけないのです。
先程も言いましたけど、そのための作戦を『雲之上学園』の入試担当教師が説明するそうです。
急ですみませんが17時迄に割烹料理の『煌亭』にいらして下さい。今度は貴方だけで結構ですよ。
後で貴方からさやかさんに教えてあげて下さい。私も向こうでお待ちしておりますので」
聖美「先生、ありがとうございました……本当にありがとうございました……必ず伺わせていただきます。
それで『煌亭』の住所についてですが………」

 冷静に考えると不審な点がある。だがさやかの合格確実の知らせで舞い上がってしまった聖美は冷静さを失っていた。
作戦を伝えるにしても、聖美からさやかに伝えるのは効率が悪く不確実でもある。それなら黒田からさやかに伝えた方が効率的で確実だ。
それにわざわざ『煌亭』に呼ばなくても、入試担当教師と電話で話せばそれで済む内容でもあった。

聖美「さやか! さやか、おめでとう! さやかは合格確実だって! もう大丈夫なんだって!」
さやか「………ふーん………そうなんだ………」
聖美「さやか……嬉しくないの? さやか、あんなに頑張っていたじゃない。遊ぶのも寝るのも我慢して。その努力が報われたのよ」
さやか「まあ……嬉しいけど……」
聖美「………さやか、やっぱり会議室で何かあったんでしょ? あんたおかしいもの。話してみなさい」
さやか「うるさいなぁ! 何もなかったって何回も言っているでしょう! いい加減にしてよ! もうその質問はしないで!」
聖美「何なのその態度は!………まあいいわ……お母さん、これからちょっと出かけてくるから。遅くなると思うから、一人でご飯食べて、戸締りして寝ていてね。それにお父さんから電話来たら、『幼なじみの送別会に行った』って言っておいてちょうだい」
さやか「待ってお母さん!」
聖美「何?」
さやか「何でお父さんにまで嘘つかないといけないの? お母さん、これから……黒田先生に会いに行くんじゃないの?」
聖美「……いいから、あんたは言われたことだけしていればいいの」
さやか「お母さん! お母さんこそおかしいんじゃないの? この前だって……」
聖美「うるさい! あんたは余計なことに口出ししないで私に従っていればいいの! とにかくもう行くから、絶対言うんじゃないよ、お父さんに!」

 聖美は逃げるようにして家を出て、タクシーに乗り込んだ。さやかは確実に気がつき始めている。
だが、ここで自分が行かないわけにはいかなかった。今度こそ本当に黒田と入試担当教師の二人に犯されようとも、ここで逃げたら全てが水の泡になる。
さやかが何か屈辱的なことをされたことが確実なだけに、さやかの努力を無駄にするようなことはできなかった。

 タクシーを30分ほど走らせると、『煌亭』に到着した。『煌亭』は星野家のような小金持ちでさえも敷居が高い高級料亭として名を知られているところである。
その壮大な建物は料亭というよりは旅館と言った方が相応しいのではないかと思うほどである。
聖美は仲居に案内されて「不死鳥の間」に通された。そこでは黒田と、もう一人中年の男が待っていた。
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