妻と男の物語


スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告


息子の先生2・家庭訪問②

[7054] 息子の先生2・家庭訪問② tttt 投稿日:2009/08/13 (木) 14:28
 「失礼します・・・」
 秀子は、二人の前にお茶を置いた。そして、不安げに、この居間でテーブルに座る、二人の男性教師の前に自分も座った。一人は息子の担任、安田先生。今日は家庭訪問でやってきたのだ。そしてもう一人・・・牛尾先生。なぜこの先生が、一緒に来るの?秀子は混乱していた。そして、理由を聞くのもためらわれる事だった。堂々と、安田先生と一緒に上がりこんだ牛尾先生。穏やかね笑みさえ浮かべている。が、秀子は、その巨躯に圧倒される思いだった。安田先生より頭一つは背が高い。
 何よりこの先生は、秀子に対して破廉恥な事をしたのだ。しかも授業参観中に。恥ずかしさと怒りが秀子の中にうごめいていた。何を考えてここに来たのだ、と・・・。
 うつむく秀子に、安田先生が切り出した。

 「お母さん。牛尾先生はですね、私のクラス、つまり隆君の副担任なんですよ」
 「副担任・・・?」
 「そうです、それで牛尾先生は、ご自身も私と一緒に、各家庭に回りたいとおっしゃってね。私もまだ、経験が浅いものですから、ありがたいことなんです。それに、牛尾先生は、昨年まで隆君の担任を勤めておられた。話もしやすいと思いまして」
 「・・・・・・」

 秀子はびくりとした。牛尾先生が、話し出したのだ。腹のそこに響くような、低い、でも良く通る声だった。

 「それと、私は柔道教室を放課後、学校の体育館を借りてやってるのです。各ご家庭に、その説明もしたいと思ってるんです、お母さん。今の子供は怪我をしやすいですからね。柔道の受身などを覚えていれば、怪我をしにくい。事故も回避しやすい。そうそう、隆君は何か言ってませんでしたか?」
 「・・・・・・」
 「えっ?お母さん。原賀さんっ」

 太い響く声だった。その声につい、秀子はのみ込まれ、返答してしまっていたのである。

 「ええ。柔道を習いたいと、言っていました」
 「そうですか?隆君とそんな話をしたのですよ。体育の授業を見ていて思ったのです。あの子は、華奢で小さいが、なかなか反射神経がいい。体も柔らかい」
 「そうでしょうか?」
 「そうです。本人は運動が苦手だと思い込んで、萎縮しているが、自身を持たすと、積極的になると思うのですよ。柔道教室がそのきっかけになればいいと思ってるんです、お母さん」
 「・・・・・・」

 話は、安田先生を中心にスムーズに進められた。学校と家庭のこと。秀子は思いつくことを話した。そういう雰囲気作りが、安田先生はうまかった。いつの間にか安心感が秀子に生まれ。牛尾先生のことさえ気にならなくなっていたのだ。
 いや、それどころか、あの授業参観中の出来事は、夢じゃなかったのか、とさえ思っていた。そうでなければ、こうも堂々と、私の前に出れないだろう、この牛尾先生は。そう、秀子は考えていた。
 そして、安田先生がまとめに入った時、牛尾先生が口を開いた。それが、緩んだ秀子の心をまた、締め付けたのだ。

 「ところでお母さん、ご主人が出張されていると、昨年おっしゃってましたが、もう帰ってこられたのですか?」
 「そ、それは・・・」
 「まだ、なのですね」
 「は、はい・・・」

 どの家庭にも、タブーのような所がある。しかしそれを秀子は昨年、当時担任だった牛尾先生に話していたのである。牛尾先生は、それ程熱心な生徒思いの先生だったのだ。

 「失礼なことを聞いて申し訳ありません。じつは最近、押し売りがこの近所に出回ってましてね。回覧板で回ってきませんか?」
 「それなら、うちにも・・・来ました」

 最近の秀子の、悩みの種がそれであった。もう三回ほどやってきては、秀子を怖がらしているのである。そして、

 「なんですと?それで、買ってしまったのですか?」
 「はい・・・」

 高価な包丁を、無理やり買わされてしまっているのだ。牛尾先生が腕を組んで、

 「ふむ・・・お母さん。あの連中は、一度買うと何度でもやってくる。毅然とした態度をとらなければいけないのです。心配だったのですよ。原賀さんのところは、今、ご主人がいませんからね。もしまた来るようなことがあれば、連絡をしてもらえませんか?いつでも結構です」
 「はあ・・・」



 安田先生と牛尾先生は、帰って行った。秀子は複雑な心境に混乱していた。訳が分からなかった。いったいあの牛尾先生の、教育熱心な態度、話しぶりは何なのだろう?あの先生は、本当に私に痴漢行為を働いた先生なのか?それともやっぱり、私が夢を見ていたのか?ずっとずっと、男性に触れられていないこの肉体が、夢を見さしたのだろうか?秀子はそう、自問自答していた。その時、玄関のチャイムが鳴ったのだ。

 隆が帰ってきたのだろう。カギをかけてしまっていたのだ、開けてやらないと。そう思い、玄関に立った秀子は、ドアを開けた。そして凍りついた。

 「奥さん。今日は、こんな物を持ってきたよ。見てもらおうか」

 立っていたのは、押し売り二人だったのである。いつも来る男たちだ。ずいずいと、入り込んでくる二人。

 「か、帰ってください。買いませんから」
 「何っ!?まず見てからでもいいだろうっ、奥さんっ!」

 凄む男たちの背後にぬっと、大きな影が現れ、秀子は思わず見上げた。いつの間にか、牛尾先生が仁王立ちになっていたのだ。
 牛尾先生は、男の一人の襟首をつかむと、後ろへ放り投げた。尻餅をついた男は、目をぱちくりさせている。

 「なっ、なんだっ!てめえはっ!」
 もう一人の男が、凄んで見せたが、その、牛尾先生を見上げる目は怯えていた。牛尾先生はその男の襟元をつかむと、反対の方向にこぶしを巻き上げた。絞め技なのだろうか?秀子はもう、膝ががくがくと振るえていて、状況が把握できていなかった。ただ座り込んでいたのだ。

 「きゅう・・・」
 牛尾先生に首を絞められている男が、空気の抜けるような声を出し、脚をもじもじさせている。牛尾先生が、その男を尻餅をついている男の隣に放り投げた。その男はぴくぴくと痙攣し、隣の男が、あわあわと口を震わせている。
 牛尾先生の怒声が、響いた。

 「いいかっ!お前らっ!俺はこの人のお子さんの学校の教師だっ!今度この家に来てみろっ!こんなものじゃ済まさないぞっ!」
 「ひ・・・ひい・・・」

 一人の男の、ズボンの股間が濡れだした。失禁をしたのだ。それは秀子も同じだった。恐怖で、体が震えていた。
 牛尾先生が、男たちの前に屈んで、

 「それに俺には、警察の知り合いが、何人もいる。大学の先輩後輩だがな。柔道の教え子もそうだ。お前らの名前ぐらい、すぐに調べられるし、下手に仕返しなど思いつくようなら、わかるだろうな・・・」
 「は・・・はい・・・」

 失禁をした男が、がくがくと頷いた。そして、もう一人の男の肩を担ぐようにして、ふらつきながら出て行ったのだ。



 「大丈夫でしたか?お母さん。原賀さん」
 「あ・・・あ・・・」
 
 膝を震わしてへたり込む秀子の前に、牛尾先生が屈みこんだ。秀子の顔を覗き込む。その顔は、先ほどの鬼の形相ではなく、温和だった。

 「お、お母さん・・・大丈夫、お母さん・・・」
 「た、隆・・・」

 息子の隆が、牛尾先生の横で、泣きそうな顔で立っているのだ。いつの間に?秀子は息子の顔を見た。息子も震えている。

 「実は、安田先生と帰る途中、隆君と会いましてな。ちょうど原賀さんの所で今日の家庭訪問は終わりだったので、もう一度柔道教室の話を、隆君も交えてしてみたいと思って、二人でこちらへ向かったのです。するとあの連中が・・・ああ、隆、水をくんできてくれないか。お母さんに飲ませてやろう」
 「はいっ」

 隆は、弾けるように家に上がると、奥へかけていった。秀子は、牛尾先生が息子を隆と呼び捨てにし、それに素直に答える息子に驚いた。そして、頬に触れた熱い感触に、何も成せなかった。抵抗も何も。

 「原賀さん。お子さんと二人だけで、いつも不安でしょう」

 秀子の頬を撫でつける、牛尾先生の手。その手は、秀子の額、髪をも撫で付けてくる。

 「私も心配なのですよ。原賀さん」
 「あ・・・や・・・やめ・・・て・・・」

 そして、牛尾先生の親指が、秀子の唇を撫でた。何度も、何度も、秀子のぷっくりとした唇を、撫でた。

 

 「お母さんっ!先生っ!水を持ってきたよっ!」
 
 隆がコップを持って戻ってくると、牛尾先生は秀子から手を離し、
 「隆、お母さんに飲ませて上げなさい」
 と言い、隆も、
 「はい。お母さん、さあ・・・」
 と、素直に秀子の口に、コップを運ぶ。

 秀子は、牛尾先生のことを忘れたように、我に帰ったようにコップの水を飲んだ。喉が渇いていたのだ。そして、息子の隆に、抱えあげられるように立ち上がると、家の奥に歩いていった。
 そしてやっと気づいたのだ。牛尾先生が、家に入り込んでいるのを。当たり前のように、自分の後ろに立っているのを。

関連記事

  1. 2013/07/17(水) 19:43:21|
  2. 息子の先生
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


<<息子の先生2・家庭訪問③ | ホーム | 息子の先生2・家庭訪問①>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://tsumaotoko.blog.2nt.com/tb.php/1711-928a94d0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)