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[Res: 8669] Re: 息子の先生6・花は開いた、種は芽生えた④ tttt 投稿日:2010/01/31 (日) 08:55
「隆くん、僕のところ最近犬を買いだしたんだ。ラブラドールの雄だよ。ジョニーって言うんだ。こんど見においでよ」
「う、うん・・・」
隆は幸彦少年と家路を歩いていた。本当は今日だけは、柔道教室を休みたかった。隆は、両手に植木鉢をかかえている。咲いた花を、早く帰って母親に見せたかったのだ。
「それにしても今日の牛尾先生、お話が長かったよね」
「う、うん・・・」
今日は幸彦少年も柔道教室に参加した。少年の言う通り、牛尾先生は教え子を集め、長々と訓辞をしたのだ。
『夢を持てっ』
牛尾先生はそう声を張り上げた。
『夢を持って、それを乗り越えろっ』
そう言って、こぶしを握り締めていた。あんな牛尾先生はめずらしい。隆はそう思っていたのだ。
「ごめん幸彦くん。先に帰るよ。お腹すいちゃった」
「そう。じゃあまた明日」
手を振る幸彦少年に構わず、隆は走り出した。
今日隆は学校で、幸彦少年に母親の話をした。母親と一緒にお風呂に入るのが嫌いだと言った。だが本当は違う。母親にオッパイを押しつけられるのが嫌だと言った。だが本心ではない。本当は、あまり入らなくなった今でも、毎日母親とお風呂に入りたいのだ。本当は、母親のスベスベで、柔らかいおっぱいに顔をくっつけるのが大好きなのだ。つい最近まで、秀子は隆とお風呂に入ると、乳首を含めと言っていた。あなたは赤ん坊の頃いつもそうしていたのよ、そう言って、含ませていた。隆が乳首を含むと、秀子は体をピクンと反応させる。その反応が何か隆には分からない。だが隆は、母親のその反応が好きだった。
(今日は僕から言ってみよう。きっとお母さんは、喜んでくれるはずさ。一緒にお風呂に入ってくれるさ)
隆は、母親の大きくて柔らかい乳房の感触を思い出しながら、門の中に駆け込んだ。
「ただいまあっ!お母さんっ、ただいまあっ!」
隆は、玄関に靴を放り投げるようにして、家に上がりこんだ。夕食のいい匂いがする。
(お母さんは台所だっ!)
隆はキッチンに走りこんで、手に持つ植木鉢をかかげた。
「お母さんっ、見てよっ!花が咲いたんだっ!僕が咲かせたんだよっ!見てよっ、お母さ・・・」
隆は、言葉を失って、たたずんだ。
(お母さん・・・だよね?)
そう言いかけて口をつぐんだ。一瞬家を間違えたかと思ったが、そんな訳はない。目の前のエプロン姿の、ニコニコと優しい笑顔の母親が、まるっきりの別人に見えたのだ。
「綺麗に咲いてるわね。これ、私の好きな花よ。貸して、キッチンに飾っておくわね」
「う、うん・・・」
「お腹すいたでしょう。さあ、お風呂に入りなさい」
「う、うん・・・」
隆は何も言わず、キッチンを出た。母親は一緒にお風呂に入ろうかとも聞かなかったし、自分からも言えなかった。それどころか、言ってはいけない気さえしたのだ。脱衣所に入ると、いつもと雰囲気が違っていた。何も変わったところはないのに。洗濯機に山盛りにシーツが詰め込まれているくらいだ。浴室に入り、湯船につかると、ますます違う雰囲気が、湯気と一緒にもわっとしているのだ。その雰囲気の中、隆は思った。お母さんはもうきっと、一緒にお風呂に入ってはくれない。それは当たっている。秀子と隆の母子が、ともに湯船につかる事はもうやってこないのだ。
「うっ、うっ、うううっ・・・」
隆は膝をかかえて涙を流した。その涙が何かは、隆には分からない。だが、悲しい気持ちの隆が流す涙は、悲しい涙じゃないのだ。
種が地面から小さな小さな芽を出すように、隆は少年の階段を、一歩上がった。
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