妻と男の物語


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息子の先生7・隆(たかし)③

[Res: 8989] 息子の先生7・隆(たかし)③ tttt 投稿日:2010/02/28 (日) 19:12
 隆の体が、勝手に動いていた。
 「あっ、入れた」
 そういう意識だけはあった。相手の懐が不用意に開いた瞬間、隆はほとんど無意識の動きで相手を背負っていたのだ。
 「一本っ!」
 審判の手が上がっている。隆は、畳に背を付く相手の上から起き上がった。周りの人たちが騒いでいるが、よくは聞こえなかった。まだ膝が震えている。悔しそうな顔を浮かべて、審判に立つようにうながされている相手を見て、この相手に勝ったんだと思った。無意識に体が動いた瞬間の映像が、スローモーションの様に頭にこびりついている。礼をして仲間の所に戻ると、先輩たちに囲まれて、頭や肩を叩かれた。まだ、呆然としていた。

 「いい動きだったぞ、隆」
 牛尾先生が、隆の肩に手を置いて、豪快に微笑んでいる。その牛尾先生の顔を見てやっと、膝の震えが止まった。ふつふつと、勝った事への喜びが沸いてきた。
 「開始十秒の一本勝ちだ。背負った瞬間を、覚えているか?」
 隆は黙ったまま、首を横に振る。
 「うむ。稽古の通りの動きが出来たという事だ。隆、相手はお前と同じ力量の生徒を選んでいるんだ。今日は合宿の交流試合だから、怪我をしないように、向こうの先生と相談してそう決めた。本来なら勝ち抜きなんだが、今日は一人一試合だ。分かるな?いつもいつもこう上手くいかないということだ」
 隆が見つめる牛尾先生の顔が、また豪快に笑った。
 「これからも、もっと稽古にはげめ。お前はもっと強くなれるぞ」
 「先生・・・」
 「まだ試合は終わっていないが、特別だ。ほら見てみろ」
 牛尾先生が顎をしゃくった方を、隆は見た。母親が、両手を胸の前に組んで、こっちをじっと見ている。
 「そら、行ってこい」
 牛尾先生はそれだけを言って、前に進み、試合中の仲間に声を出し始めた。

 隆は、ゆっくりと母親の前に歩いて行った。母親の周りを、ジョニーがぐるぐると回って尻尾を振っている。母親の前まで来た隆は、自分も泣きそうになった。母親は顔を真っ赤にして、頬を涙で濡らしているのだ。
 「お母さん・・・」
 「隆・・・隆ぃ・・・」
 「ああっ、お母さ・・・」
 懐かしい柔らかさに、隆の顔が埋まった。隆は、母親に抱きしめられ、顔を胸に押し付けられた。あまりの柔らかさの中に溶け込んでいきそうな気がした。
 「凄いわ、隆。あなた、凄いわよ。お母さん、感動した」
 隆は、母親の胸の柔らかさに埋もれながらこう思った。

 (やっぱりお母さんは僕のお母さんだ)


 ~~~


 合宿は、終わった。稽古を終えた生徒たちは、最後の夜をバーベキューで楽しんだ。戦争のような準備と後片付けを終えた秀子は、一人、夜の砂浜に向かって歩いているのだ。少し、海の風に当たりたいと思ったのだ。いや、一人ではない。ジョニーが秀子の横を歩いている。そのジョニーに、秀子は話しかける。この合宿中、ずっと気になっていた事だ。
 「ねえ、ジョニー。あなたあの時、バスの中にいたの?」
 行きのバスの中で、パーキングで休憩中、秀子は牛尾先生にフェラチオをした。そして、お尻に射精されたのだ。ジョニーは休憩中、バスの外に出ていなかったと思うと、幸彦少年と隆は言った。
 「ジョニー、見たの?私と、牛尾先生が、してるのを・・・」
 「ハッ・ハッ・ハッ・ハッ・・・」
 ジョニーは一度秀子を見上げただけで、また前を向いてしまった。秀子は、まあいいか、と思ってしまう。それは犬だから、と卑下しているのではない。それよりも、話せる相手が出来たことは、どれ程、気持ちにゆとりができるかと、ホッとしていた。犬だからこそ、そう思った。

 いい合宿だった。秀子はそう思う。息子の成長が何よりも嬉しい。感動のあまり泣いて、思わず抱きしめてしまったが、これからは気をつけよう。そう思うのだが、でもいいじゃない、母親なんだから。そうも考えてしまう。
 (隆・・・私の子供よ、あなたは・・・)
 秀子は、夜の中でも晴れやかな心持ちで、またジョニーに話しかけた。何でも話せる相手だ。
 「ねえ、ジョニー。牛尾先生はね、その、私の、お尻が欲しいって言うのよ」
 「ハッ・ハッ・ハッ・ハッ・・・」
 秀子は、何の表情の変化もなく見上げてくるジョニーに、ひとり言のように話しかける。
 「私の、初めてのお尻が、お尻の穴が、欲しいんだって。どう思う?」

 「いいケツしてんな」
 思わずジョニーがしゃべったかと思ったが、違う。声は、背後からした。それにその声は、ゾッとする様ないやな響きだ。秀子は、後ろを向いた。三人の若い男が立っている。柄の派手なシャツの前を開いて肌をむき出している男たちは、髪の毛が茶色で、耳や鼻や唇にピアスをしていた。
 「あ、あの・・・」
 立ち止まった秀子に、三人の男が迫る。真ん中の男が、両手をポケットに入れたまま、背を丸めて顔を前に突き出した。そして、あっかんベーをする様に、べろっと舌を伸ばしたのだ。舌にピアスをしている。
 「ひっ・・・」
 横の男が話す。
 「へえ・・・後ろから見たら、二十歳そこそこかなと思ったけど、結構、色っぽいじゃん。二十七、八って所かな?まだ若い青少年の僕ちゃんたちにはたまんねえよ、この熟れた匂いがさあ。なんとかしてぇ、お姉様ぁ」
 「ひいっ・・・」

 話していた男が、両手を後頭部に組んで、品のない動きで腰を前後に振っている。良く見ると、破れまくっているジーンズの前が膨らんでいるのだ。
 「何とかしてぇ」
 その男の気持ちの悪いクネクネとした動きに、秀子は、もう一人が背後に回っている事に気づかなかった。そして、言葉が詰まった。出なかった。瞬間の衝撃に、何もできなかった。
 「でけぇっ!でけえっ、でけえっ!柔らけえっ!」 
 後ろに回った男に、両の胸をつかまれて、秀子の体は左右に振られた。秀子の乳房をつかんでいる男は、でかいっ、でけえっ、柔らけえっ、と狂ったように叫び、秀子の体を振り回している。

 秀子は、舌を出し続ける男のにごった目を見た。その男が舌を引っ込め、氷の無表情のまま、
 「向こうの林の中へ連れて行け」
 とほとんど唇を動かさずに言った時、やっと自分がするべき事が分かったのだ。
 「嫌ぁっ!」
 秀子は叫んだ、そして、もう一度叫ぼうとした時、後ろの男に口をふさがれた。

 「ウウーッ」
 とうなり声をあげたジョニーが、舌にピアスの男に飛び掛った。男のふくらはぎに噛み付いたジョニーは、次の瞬間、
 「キャンッ!」
 と悲痛な声を出して吹っ飛んだ。腰を振っていた男に思い切り蹴り上げられたのだ。

 羽交い絞めにされる秀子は、後ろに引きづられていきながら、何度も蹴られるジョニーを見た。ジョニーに噛み付かれた男は、またピアスの舌を伸ばして、背を丸めて秀子について来るように前に進んでくる。その後ろを、腰を気持ち悪く振りながら、もう一人の男がやって来る。ジョニーは伏せてまったく動かない。

 秀子の目の回りが、まったくの夜になった。月明かりが防風林の中で消えたのだ。
 「何とかしてぇ、早くぅ」
 

 絶望が、秀子の視界をさらに暗くした。
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