妻と男の物語


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息子の先生7・気づく者、気づかない者①

[9101] 息子の先生7・気づく者、気づかない者① tttt 投稿日:2010/03/06 (土) 12:28
 秀子は、その大きな人影を見た瞬間、へなへなとその場に座り込んでしまった。絶望で乾いていた瞳から、涙がぽろぽろとあふれ出し、その涙の温かさを頬に実感して、さらに泣いた。誰でもいいから、誰かにしがみつきたくなって、もっともっと泣いてしまう。その時に、あの少年が秀子の肩を叩いたのだ。
 「おばさんっ、大丈夫?おばさんっ」
 「幸彦くん・・・・・・幸彦くんっ」
 秀子は、幸彦少年の小さな痩せた体にしがみついた。少年の体は痩せて小さいが、そのぬくもりが秀子を包み込む。鼻水を垂らしながら泣いている秀子に、少年は語りかけた。
 「おばさん、怖かったよね。もう大丈夫だよ」
 まるで自分が子供で、幸彦少年が大人のように感じた秀子は、自分の考えが間違いではなかった事を悟る。秀子は涙ではらした目で、しっかりと少年を見つめて聞いた。
 「幸彦くん、あなたが、連れてきてくれたの?」
 幸彦少年は、力強くうなずき、見上げた。淡い月明かりで大きな人影を作っている人、牛尾先生を。

 
 
 自分の女を花開かせたのは、牛尾先生。そして、目の前の小さな子供。秀子は、牛尾先生が自分に、巨根をさらして迫ってきた時には必ず、この少年が近くにいた事に目が覚めるのだった。全てだ!
 
 中出しされて、初めて絶頂失神し、女として花開いた性交・・・学校を抜け出した幸彦少年は、門前で秀子の足を止めて、牛尾先生の家庭訪問から逃げる機会を奪った。

 牛尾先生と学校内で初めてセックスをした時は・・・幸彦少年は、柔道教室に通いたいから、一緒に来てくれと、秀子の手を引っぱった。

 隆の誕生日会で、秀子は自宅で牛尾先生についに抱かれた・・・その誕生日会に牛尾先生を連れてきたのは幸彦少年。

 上級生と喧嘩した隆の事で、学校に呼び出された時、学校の一室で秀子は牛尾先生にフェラチオ、パイズリ奉仕をして、セックス寸前までいった・・・隆が喧嘩した理由は、幸彦少年が相手の上級生にいじめられたからだ。

 担任の安田先生とともに家庭訪問に来た牛尾先生は、秀子に迫った。秀子はその時初めて、愛撫に潮噴きしたのだ・・・秀子の家が、その日、最後の訪問宅でなければ、牛尾先生は迫らなかっただろう。元々は、秀子の家の次に、最後は大竹夫人宅のはずだった。大竹夫人が、秀子に順番の入れ替えを申し出たのだ。理由は、幸彦少年を塾に連れて行くためだと言っていた。

 全ての始まりの授業参加・・・もし、教室のはじっこでなく、真ん中にでも陣取っていれば、牛尾先生の痴漢行為はなかっただろう。秀子が教室に入るのが遅くなければ、真ん中に立てたはずだ。遅れたのは、学校の玄関で、靴を隠されたと泣きべそをかいていた幸彦少年と一緒に、靴を探したからだ。

 そして今、開いた秀子の花びらを散らさない為に、幸彦少年はやって来た。牛尾先生を連れて・・・



 秀子は、目が覚める思いで少年を見つめた。秀子が女として花開いてしまうまで、養分を与え水を与え、ずっと見守り続けていたのだ、この少年が。この痩せこけた、いじめられっ子が・・・。
 『幸彦は、きっと、とんでもない男になる』
 秀子は、太く低い声を思い出し、それと同じ声を、耳にした。
 「隆、どうしたんだ?」

 「おばさん、見て。隆君が・・・」
 秀子は、少年が見つめる方に顔を向けた。ジョニーと、隆が並ぶように地面に倒れている。二匹は、傷だらけだった。二匹・・・そう、秀子には、ジョニーの目と隆の目が、同じ獣の目に見えたのだ。


 ~~~


 背の高い男は、後ろから牛尾先生に、頭頂部と肩をつかまれている。その手を振り払いながら「うがあっ!」と咆哮し、牛尾先生と向きあった背の高い男の顔は真っ赤だ。良く見ると薄くなっている頭をつかまれた事で、沸騰してしまったのだろう。牛尾先生のTシャツの奥襟と袖を、その男はつかんだ。背は、牛尾先生よりも高い。クネクネ男が叫んだ。
 「やっちゃいなあっ!インターハイ準優勝の実力を見せちゃいなあっ!」
 叫んだクネクネ男も、吹っ飛ばされて地に横たわる舌ピアス男も、薄ら笑いを浮かべている。きっと男たちにとって、インターハイ準優勝の実力という、この背の高い男が、恐怖から身を守る盾なのだろう。薄い月の明かりに浮かぶ薄ら笑いは、何も知らない醜い人形の滑稽だ。それに比べて、背の高い男の顔は、生の人間らしい。恐怖に凍りついているからだ。

 組み技をやる者は、組んだ瞬間、相手との力量差が分かるという。

 「投げられなかったんだな、隆」
 「うん、牛尾先生」
 背の高い男の方を見もせず、牛尾先生は隆に話しかけ、隆は師の問いに答えた。
 「よく、見ておけよ」
 牛尾先生は、静かに静かにそう言った。そして隆は、聞いたのだ。空気が切れる音を。

 シュパンッ!
 
 牛尾先生の大きな体が、小さな球体になった様に、隆には見えた。その時、夜の黒い空気に白い切れ目が入ったのを見て、その切れ裂かれる音を、確かに聞いた。背の高い男は、月明かりに舞う砂ぼこりの中で背を地面につけている。その男の腕が、牛尾先生に引きずられる。剛腕で引きずり起こされる男の喉から、「きひい、きひいぃ・・・」と絞られる恐怖の声は、窓ガラスに爪を立てた時の音に似ていた。
 「隆よ、以前お前がいじめっ子と喧嘩した時、相手を怪我させてはいけないと教えたな。そして、その投げ方を教えた。覚えているか?」
 「うん・・・」
 「だがな、怪我をさせてもいい相手もいるんだ。怪我をさせる投げ方を使う相手もいる。その事を、忘れるな」

 シュパンッ!

 また、空気が切り裂かれた。砂塵を巻き上げている背の高い男は、口から泡を吹き出している。隆は背筋が冷たくなるのを感じていた。相手を投げた後、相手の襟と袖を上に引っ張る。そうすると叩きつけられた時の衝撃が小さくなる。牛尾先生にはそう教えられた。だが牛尾先生は、回転の力を全て、背の高い男から地面へと伝えているのだ。背筋が冷たくなった隆は、体がプルプルと震えている。鳥肌が立っている。小さな獣が、狩の仕方を覚えたのだ。目覚めた野性の喜びだろう。空気が避ける音は、その場の中では、隆にしか聞こえない。本能の喜びに震える隆の他は、クネクネも舌ピアスも恐怖に固まり、秀子と幸彦少年にいたっては、牛尾先生の動きを追う事すらできない。いや、隆の他にもう一匹いるか・・・ジョニーだ。
 
 「こいつはもう駄目だ」
 牛尾先生が背の高い男から、クネクネ男へと向かって、ゆっくりと歩を進める。クネクネは後ずさりながら、牛尾先生に向かって両手を伸ばしている。まるで女の子がバイバイをしているみたいだ。
 「いやん」
 そう言って後ろに倒れそうになったクネクネの手首を、牛尾先生がつかんだ。恐怖のどん底の時は、そうしてしまうのだろうか?クネクネは牛尾先生に向かってぺこりと頭を下げたのだ。

 シュパンッ!

 夜が裂かれる白い線を見るたび、空気が切れる高い音を聞くたび、隆の小さな体は震えを大きくする。隆は立ち上がっていた。ふらふらと、体をねじ曲げて横たわっているクネクネ男の横を通り過ぎ、ふらふらと、舌ピアス男に向かう。
 「殺してやるっ!」
 「隆ぃっ!」
 舌ピアスがナイフを眼前に突きつけた時、母親の声が聞こえた。聞こえただけだった。それよりも、牛尾先生の声が鮮明に耳に入る。
 
 「俺の言う事をよく聞け、隆。そいつは刺青を隠すためだろう、長袖を着ている。落ち着いて、そいつの袖を取れ。ちょくせつ手首を持つなよ。汗で滑るんだ、覚えておけ。袖を取ったら絞って、腋を締めろ。お前の力が勝つっ」
 隆は、言われる通りにした。すると、牛尾先生の言う通りになった。笑いがこぼれた。その隆の笑みを見て、舌ピアス男が、震え上がった。
 「うっ、くそっ、くそっ・・・」
 隆に袖をつかまれた右腕を引き離そうと、舌ピアスは踏ん張るが、どうにもならない。どうにも・・・そして、小さな回転に巻き込まれたのだ。

 遠心力の中心の隆は、納得がいかなかった。空気が切れていないのがはっきり分かるからだ。そして、目の前にふらつき立ち上がる獲物を見て、飛び込んだ。
 「ひえぇっ!」
 獲物は叩きつけるたびに声を発する。それも気に食わなかった。牛尾先生は背の高い男を二回で、息の根を止めたのに。クネクネ男はたった一回だ。目の前で手を合わせている獲物を見て、隆は牙をむいた。全身から、獣毛が生えた気がした。牙が伸びた気がした。吠えた!
 「うぎゃあぁっ!」

 「もうやめてぇっ!」
 獲物に飛びつかんとする刹那、隆は温かく柔らかいものに包まれていた。いや、取り込まれた。闇を切り裂こうと全身を総毛だたせて鋭い力を集約しようとした瞬間、温かくやさしい柔らかさにとらえられたのだ。
 (この柔らかさは、絶対に切れない・・・)
 隆はそう思って、そのぬくもりに溶け込んでいきながら、人間の声を出した。
 「お母さん・・・」
 「もうやめてっ。お願い、隆っ。もう十分。十分・・・」
 
 「隆くん・・・」
 「クウン・・・」
 母親の涙に濡らされる隆の元に、親友の幸彦が、そして、愛犬ジョニーが寄って来る。母親に抱きしめられ、ダランと垂れた隆の指の先を、ジョニーが舐めた。
 「ジョニー・・・」
 愛犬ジョニーは、隆の足元に伏せて動かなくなった。横になったジョニーは、片目で隆を見上げている。真っ黒な、引き込まれそうな目。愛犬の、人間を信じる目だ。隆を、信頼している目だ。

 「どうする?隆、ジョニーを病院に連れて行くか?俺が知っている外科が、この近くにある。犬だが見てくれるだろう。連れて行くのなら、電話をしてやる。お前も見てもらった方がいいんだ。それとも、そいつを、まだ投げるか?」
 隆は、牛尾先生を見た後、舌ピアス男に目を向けた。舌ピアス男は仲間を見捨てて何処に逃げようかと、キョロキョロしているが、牛尾先生の威圧の怖さに足がすくんでいるようだ。隆はそれから、母親を見た。

 一瞬にして、夜が開けた気がした。母親の涙の顔を見た瞬間、春の海が広がったのだ。凪の海のさざなみと、澄んだ波打ち際の美しさ。青く高い空にかすむ白い雲。夜を白く切り裂く技を見たとき震えた体が、夜の幕を晴れやかに開いた母親を見て力が抜けた。隆は、かがんでジョニーの頭を撫でながらつぶやいた。
 「ジョニーを、病院に連れて行くよ」


 ~~~

 
 「行こう、隆くん」
 幸彦少年は、ジョニーを抱えあげると、隆に声をかけた。牛尾先生は、携帯電話で話しをした後、病院の場所を言って、お金を手渡してきたのだ。
 『お前にまかせたぞ、幸彦』
 牛尾先生はそう言った。そして、
 『これから隆のお母さんと、こいつらと、話をしなくてはならん。場合によっては警察に行かなくてはならない。お前たちには、かかわっていてほしくないんだ。言いたくない事まで聞いてくるからな、警察は。まあ心配するな。この地元の警察には、俺の知り合いが多い』

 幸彦少年は、となりを歩く隆を見た。うつむいて何も言わない。男を何度も投げていた時のこの友達は、テレビで見た事のある、草原を駆ける野生動物のようだった。それが、いつもの友達の隆だ。でも幸彦少年には、なんとなく感じるところがあった。となりの親友の体の中に、消す事のできない別の人格が出来上がってしまった事を。幸彦少年が、執念を燃やすモノを持ってるからこそ、分かる事なのかもしれない。

 後に、日本狼と呼ばれて、世界中から畏怖される柔道家が生まれた瞬間を、幸彦少年は見ているのである。



 幸彦少年は、県道に出て、防風林の方角を見た。暗く遠く、良く見えないが、人影がぼんやりと見える。あの影は、おばさん。あの大きな影は、牛尾先生。その二つのぼんやりとした影が、一つに重なったような気がした時、タクシーが通りかかった。遠く、暗すぎて分からないその影を、タクシーに乗った後もう一度確認しようとした時、車が走り出した。
 
 
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