妻と男の物語


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誠実な人(4) 1

[5750] 誠実な人(4) イワタ 投稿日:2009/01/03 (土) 13:43
「ただ、私にはそんな機会はもうないでしょうがね。」
「機会が無い?」
「ええ、今度、転勤が決まっているのですよ。」
「転勤?どちらに転勤されるのですか?」
「九州の南、鹿児島の向こうの離れ島に行きます。こんな年齢なのに転勤なんて困ったものです。何年後にもどってくるのか、それさえわかりません。」
「そうなのですか・・・。」
権藤さんをこんな風に走らせたのは、転勤という事情もあったのでしょう。
不能を回復させるかもしれない奥様とそっくりな妻に出会った権藤さん。
けれども、彼に残されていた時間は限られていたのでした。
だから、ちょうど一ヶ月前「奥様を抱かせてください」と衝撃的な発言をされたのでしょうか・・・。

そして、私達は喫茶店を出ました。
「機会がないといいながら、実は奥様ともう一度、最後にもう一度と思う未練がましい私が居ます。」
と言うと、いきなりその場で頭をつき、土下座をしました。
「もう一度奥様を抱かせてくれませんか?」
「権藤さん、こんな道端でやめてください。」
私は、突然の行為に驚きました。
けれども、権藤さんはやめようとはしません。
私の頭の中にいろんなことが駆け巡ります。
権藤さんはもう南の離れ島に行き、会うこともなくなって、これが最後の行為になるであろうこと。
妻が優しさから、身代わりになることを志願したこと。
どうしようもないくらい正直でストレートな権藤さんのこと。
いざとなれば、最後の最後で、妻がストップをかけるのではないかということ。
私に対する愛が、身代わりになる愛よりも強いのかどうかということ。
私の頭の中ではある方向へと結論が傾いていきました・・。
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