妻と男の物語


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伯爵からの招待(9)

[5600] 伯爵からの招待(9) 角笛 投稿日:2008/12/14 (日) 17:54
16 美和の評判

 朝いちばんからの会議のため、早めに出勤しようと私は支度を急いでいたが、今朝にかぎって美和はなかなか起きてこなかった。しかたがないので、まだ眠っている美和に声をかけてから今日はひとり先に出かけることにした。美和は熟睡していた。
「起こしてごめん、美和。今日は朝いちから打ち合わせがあるので先に行くよ」
 けだるそうに目を開けると、美和はゆっくりと口を開いた。
「……あなた、ごめんなさい……。ぐっすり眠っていて目覚ましに気がつかなかったわ」
「昨夜はうなされていたようだったけど、大丈夫かい?」
「……ええ……。なんか、少し熱っぽい感じだけど、大丈夫と思うわ。たぶん……」
「風邪か? 具合が悪かったら無理するなよ」
「ええ、ちょっと身体が熱いだけよ。大丈夫。追っかけて支度するわ。あなた、いってらっしゃい」
「ああ、それじゃー、行ってくるよ」
 私は美和にキスをし――この程度の交渉は、伯爵の支配下でも大丈夫だった――部屋をあとにした。

 私が所属している商品企画部――部長が冴嶋威信、つまり〝伯爵〟さまだが――は、商企一課(商品企画一課)から商企六課の六つの課から成り立っている。私はその中の商企三課に、美和は商企一課に属している。
 午後三時少し前ぐらいだったろうか? 休憩がてら、私はトイレの個室で便器に腰を下ろしていた。早い話、大きい方を催していたのである。事をスッキリ済ませ、ウォシュレットで尻をキレイに洗ってパンツを上げようとしたとき、トイレに入ってくる人の声が聞こえてきた。小便のようだったので、彼らをやり過ごしてから個室を出ようと少し待つことにした。

「赤井さんと顔合わせるの久しぶりですね」
「ほんと、久しぶりだな。元気にしてた?」
「ええ、まあ。それより商企一課はいつも調子いいですよねェ」
「二課には負けるよ。そんなことより黒木、今日の美和ちゃん見たか?」
「えっ? 美和ちゃん? 一課の山元美和のことですか?」
「違う。このあいだ結婚したから今は佐伯美和だよ。そんなことはどうでもいいんだ。今日の彼女の服装見たか?」
「あー、見ました見ました。制服のベストを脱いでブラウスだけなんですよね。胸が躍っているって、うちの課(二課)でも午前中にちょっとした評判になっていましたよ」
 うちの会社の女子社員は基本的に制服を着用しているが、ローズピンクのベストとタイトスカートに白のブラウスという組み合わせで、ちょっと可愛くプチセクシーな雰囲気だ。下着が透けるのを警戒してか、夏でもだいたいベストを着ている娘が多い。いまはまだ夏服ではないが……。
 二人のうちひとりは私の同期で商企一課の赤井のようであった。もうひとりは、どうやら商企二課の黒木のようであった。黒木は美和と同期のはずであった。
「黒木くんは表面しか見えていないねえ。今日の美和ちゃん、たぶんノーブラだぞ」
「えっ、うそー!?」
「一課は朝から仕事にならない状態だよ。オッパイの先っちょがうっすら透けていて、おまけに動くたびに揺れるだろ? たまらんよ。元々、美和ちゃんってスゴイ美人じゃん? 結婚して人妻になったら色気がさらに乗って、向かうところ敵なし、っていう感じさ。うちの新人くんなんか、ボオッー、と見とれていたりしてさぁ。あいつの今晩のオカズは美和ちゃんだぜ。まちがいない」
「ほんとですか? ノーブラ!? あとで見に行きますわ」
「ベスト脱ぐとセクシーだよな。ウエストが細くて、タイトスカートのヒップ周りがムチムチとしていて……。あかん、また勃起してくるわ……」
「こんなところでやめてくださいよ……」

 私が入っている個室はトイレのいちばん奥だったので気付いていないのか、それとも無視しているのかわからないが、二人は美和のことで盛り上がっていた。用をたしたあともいっこうに出ていく気配がなかった。私は個室を出るタイミングを逸し、仕方なく息を潜めて会話に耳を傾けていた。
「それでさあ、黒木ちゃんは今晩暇ある? 飲みに行かない? 美和ちゃんもいるよ」
「えっ、どういうことです。今晩は特に予定は入っていませんが……」
「美和ちゃんが妙にエロエロモードでさ、俺たちも我慢できなかったわけよ。青田さんが美和ちゃんに『今晩久しぶりにみんなで軽く内輪の宴会やらないか?』って声をかけたところ、以外にもOKが返ってきたのよ。ダメで元々だったんだけど……」
 商企一課の青田は私より確か2年先輩だったはず。あの青田さんが……。
「行きます、行きます。オレも混ぜてください」
「そう言うと思ったよ。美和ちゃん、キレイで色っぽいよねェ。そのうえ、今日はエロいよ。もしかしたら『ヤレル』かも、なんてね。商企三課の佐伯さんには、このこと内緒だぞ」
「諒解。ところで何人集まるんです?」
「美和ちゃんを囲んで、青田さん、オレ、白川、そして、おまえ」
「宴会はどこで?」
「それがさ……」
 赤井はいやらしく、グフフフ、と笑い声を上げてから言った。
「青田さんのマンションでこじんまりと宴を催すことになっているのよ」
「えっ、マジですか!?」
「だから言っただろ。今夜はもしかしたら、もしかするかもよ」
「それはスゴイですねェ。佐伯さん、美和ちゃんのことをほったらかしにしているのかなあ? ちょっとエッチな感じなんでしょ、彼女?」
「もしかしたら、佐伯さんの手には負えないのかもよ」
 そのあと再び赤井は下品な笑い声を上げ、「今晩よろしく」と言うと、トイレを出て行った。彼のあとを追うように黒木も出て行ったようであった。
 彼らの言っていたことは本当のことなのか? それとも、ただの冗談か? ちょっとエッチな話題に美和をからめて愉しんでいるだけなのだろうか?

17 疑惑のとき

 同じフロアーではあるが、美和の所属する商企一課と私の所属する商企三課は少し離れていた。遠目に見える美和の姿は、確かにベストは着用せず、上半身はブラウスだけのようであった。ブラジャーをしているかどうかまでは、ここからは見えなかった。見に行けば良かったのかもしれないが、そうする勇気はなかった。
 夕方、定時退社の時刻が近づいてくると私はドキドキし始めた。美和から何か連絡が入るのだろうか? 刻一刻と、定時へ向けて時が刻まれる……。

 携帯電話に美和からのメールを着信した。
――今晩、急に商企一課の宴会が入りました。
――伯爵さまの家へは、少し遅れて伺います。
――あなただけ、先に行ってください。
――私もあとから、必ず行きます。
――伯爵さまによろしくお伝えください。
――美和

 商企一課の宴会? 内輪の宴会とは、どこにも書いてなかった。何故それを言わない。美和の様子がおかしい。昨夜就寝中もおかしかったが、そういえば今朝も、何か身体が熱いと訴えていたっけ? どうしたものか。私は対応に逡巡した。
――伯爵さまの命令に背くわけにはいかないぞ。
――宴会をサボれないのか?
――亮輔

――ダメなのよ。
――結婚したてのわたしが主役なの。
――ごめんなさい。
――伯爵さまによろしく。
――美和

 どうやらサボる気はないようであった。私は胸騒ぎを覚えた。美和は状況を正確に私へ伝えていない。危ない。赤井が言っていたように、本当に青田のマンションで彼らだけで宴会するのであればとても危ない。美和の貞操が……。新妻の夫として、伯爵以外の男たちに美和を弄ばれる気は私にはなかった。

「冴嶋部長、ちょっとお話があります」
 私は部長――伯爵さま――に状況を伝え、指示を仰ぐことにした。本日知り得た情報の要旨を伯爵に報告すると、伯爵は眉間に皺を寄せ少し考えてから次のように言った。
「とりあえず、きみは青田くんの家へ行け。部長職である立場上、私は配下社員の住所録を持っている。青田くんの住所は……」
 私は伯爵からメモを受け取るとその場を離れようとした。
「いいか、急いで行きたまえ。イヤな予感がする。まさかとは思うが、もしかしたら……。可能性はほとんどないはずだが、しかし……。うーん……。とにかく、急いで行ってくれ。私もすぐにあとを追う」
「わかりました、部長」
 私は会社をあとにした。

<つづく>
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