[6065] 伯爵からの招待(13) 角笛 投稿日:2009/02/09 (月) 17:01
24 淫蕩の日々、そして……
美和が妊娠してから安定期に入るまでのあいだは、おとなしいセックスが続いた。といっても、毎夜、伯爵の男根をしゃぶって口唇奉仕していたし、ときには汁男たちがやって来て淫蕩の限りを尽くしていた。
臨月が近づいてくると、徐々に美和の乳輪の色素が濃くなってきた。淡いピンク色だった乳首も茶褐色を帯び、いよいよ母親となる時期が近づいてきた。
「伯爵さま、いま、赤ちゃんが動きましたわ」
「おお、元気そうでなによりだ。佐伯! 私たちの赤ちゃんは順調に成長しているようだよ。きみも慶んでくれるかね?」
「あなた……ごめんなさい。複雑な気持ちなのは、わかるわ……。でも、どうか慶んで欲しいの。だって、この子は私たちの子として戸籍に登録し、育てていくんですもの。ねっ? お願い、この子を愛して……。勝手な言い分だとは思うけど、この子をあなたの子供として、お願い……」
美和の切れ長の目からは涙が溢れていた。この瞬間、彼女の言っていることは真実だった。彼女は心から、そうなることを――私が、〝美和〟と〝伯爵〟の子を〝自分の子供〟として愛することを――望んでいるようだった。
「わかっているよ……。いや、わかっているつもりだよ……」
私は、いまできる最大限の微笑みをもって美和に答えた。
「麗しい夫婦愛だねェ……。いや、失礼」
伯爵は居住まいを正すと、私と美和に向き直った。
「さて、そろそろ出産も近いからきみたちに言っておこう。これからのこと。よく聞いておいてくれたまえ」
伯爵はそう言うと、厳粛なる面持ちで話し始めた。
25 伯爵の予定
美和は、私の遺伝子――わが一族に伝わる誇り高き〝伯爵〟の血――を宿す子を産んでくれようとしている。そして同時に、私の遺伝情報によって美和自身も変わっている。生理的にも、精神的にも、私に感化され、いままでとは全く違う人格に変わろうとしている。わが遺伝情報に対する適合度・親和性が異常に高すぎる点が少し気になるが、だいたい、〝花嫁〟はいつもこんな感じなのだよ。
そして出産。
子を産むという行為は、女性を根底から覆す力がある。いままでの価値観とは異なる、コペルニクス的転換を強いる充分たる力が備わっている。
その〝時〟を迎えた〝花嫁〟は、子を産む瞬間に『私との全ての記憶を失い、リセット』される。私と係わったことをいっさい忘れてしまうのだよ。だから佐伯くん、安心してくれたまえ。私はきみのことを〝佐伯くん〟、彼女のことを〝美和さん〟と呼ぶようになり、彼女は産まれてくる子を〝きみの子供〟と信じて疑うことはない。きみが本当のことを言わない限り、彼女は真実を思い出すことはない。
わかってくれたかい? きみが口を閉ざせば、真実は闇に葬られ、ウソが新たな『真実』となる。それを守り、子を育てていくことが、〝しもべ〟たるきみの役目になるのだよ。
では、出産の日までのしばらくのあいだ――私にとっては残り少ない〝きみたちとの蜜月〟の日々――を愉しむとしようか。
26 出産 ~美和覚醒
美和はとてもかわいい女の子を出産した。彼女に似て目鼻立ちの整った、色の白い女の子だった。この子は将来きっと美人になる。私は、遺伝学的・生物学的な意味での父親ではなかったが、うれしかった。
出産直後の女性は最高に美しいというが、美和はほんとうにキレイだった。女としての美しさ、母親としての慈愛に満ちた美しさ、そして人妻としての妖艶な美しさ。頬をピンク色に染めて、やさしく赤ちゃんに微笑みかけている美和を見ていて、私は幸せを感じずにはいられなかった。
「あなた、赤ちゃんがいま、わたしを見て笑ったわ。ほら」
「ああ、ほんとだね。かわいいね。ぼくたちの赤ちゃん」
「あら? 違うわよ。赤ちゃんは〝わたし〟と〝伯爵〟とのあいだに出来た子よ。あなたはわたしの愛する〝夫〟であると同時に、わたしの忠実なる〝しもべ〟でしょ?」
「えっ」
わたしの目の前は一瞬にして真っ暗になった。美和……。いったい、どういうことだ……。
27 伯爵の誤算
「彼女は私のことを確かに〝伯爵〟と言ったのだね?」
「ええ。そして産まれたきた子のことを『伯爵とわたしの子』と言ってました。これはどういうことなのでしょう? 伯爵さまはおっしゃいましたよね。子を産む瞬間、彼女は全てを忘れてリセットされると。それがどうして……」
「やはりそうか……。まさかとは思っていたが……」
「えっ。どういうことなのです? わかっていたのですか?」
伯爵は厳しい顔つきで私を睨むように見ながら言った。
「前に私が言ったのを憶えているかね? 私の遺伝情報に対する彼女の適合度・親和性が高すぎると言ったことを。私の遺伝子を取り込み、肉体的にも精神的にも、彼女は感化されていったが、異常に早過ぎるのだよ。あれは感化された、影響されたというより、むしろ……」
「むしろ何なんです? 伯爵さま、おっしゃってください」
「あれは、『元々備わっていた特性・能力が呼び起こされて』淫行に耽っていた、と言うのが相応しいような気がする」
「えっ? どういうことです。わかりやすく言ってください」
「彼女は元々、『わが一族に伝わる遺伝情報』を、極めて純粋なかたちで持つ続けていた女――生まれながらにして〝伯爵〟の能力を備えていた女――であるということだよ」
私は伯爵の言葉を呆然と聞いていた。伯爵はさらに続けた。
「そう考えれば合点がいく。彼女の適応力、セックスに対する積極性、淫乱に耽るさま。そして、普段はそんなことを全く思わせない貞淑な姿。淫乱と貞淑を使い分ける二つの顔を持つ魔性の女。私とのセックスで彼女が変わったと思っていたのは全くの誤解だったんだ。確かに私とのセックスで彼女は変わった。しかし、それは彼女の本来の性質を呼び起こすキッカケにすぎなかった」
伯爵の声はどこか弱々しかった。いつもの威厳に満ちた、威圧感のある声ではなかった。
「明日、彼女に会いに行くよ。それで全てがわかる」
私は伯爵のマンションをあとにした。
<つづく>
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