妻と男の物語


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嘘と真実4

[Res: 8768] 嘘と真実4 沢木 投稿日:2010/02/10 (水) 21:07
 午前0時過ぎ。未だに帰らない妻を待ちながら、私は強くもない酒を飲み続けていました。
(祐子は今、何をしているだろう…)
 不安に胸を締め付けられ続けた私は、酒の量も許容範囲を越えそのままリビングでウトウトとしていたようです。
『ガチャ』
 という玄関の音に気付き、横になっていたソファから薄目を開け、顔だけを向けると妻が忍び足でリビングに入って来るところでした。私は朦朧とした意識の中で何故か寝たふりをし、再び目を閉じて寝息を立てました。祐子がそっと私の顔を覗き込んでいるのが分かります。
「ふぅ…ごめんね…」
 寝ている私を確認した妻は、安心したような吐息と意味深な謝罪の言葉を残し、そのままバスルームへ向かいました。たった数秒の事でしたが、それだけで十分です。私は、気付いてしまいました。妻の身体から、香水ではない石鹸のような香がした事に…。
(祐子が…浮気…?まさか、そんな…。いや、しかし今の香りは…)
 よく働かない頭を何とか回転させ、妻の浮気を否定しようと試みますが、どうにもなりません。私の想像は、悪い方へ悪い方へ突き進んで行きます。酒の酔いと妻への疑惑にクラクラする頭を抱え、私はいつの間にか本当の眠りに落ちていました…。


 翌朝。リビングのソファで目が覚めた私に、朝食の準備をする妻が爽やかに声を掛けました。
「おはよう。昨日は遅くなってごめんね。あなた、リビングで寝ちゃってたからそのまま布団だけ掛けておいたわ」
「あ…ああ…。ところで昨日は何時頃に帰って来たんだい?」
「12時過ぎだったかしら…私も久し振りに酔ってたから詳しく覚えてないわ」
 そう言って、屈託のない笑顔を見せます。
「そう…遅かったんだね」
「怒ってる…?ごめんなさい、あなた」
「いや、いいんだよ。たまの事だしね」
 私は、精一杯の強がりを言いました。
「昨日は随分飲んでたみたいだけど、朝食は食べられそう?」
「うーん…止めておくよ。ちょっと顔を洗ってくる」
「はい」
 昨日の事が嘘のように、明るい妻の声です。
(もしかして僕の思い過ごし?)
 そんな気にさせられるほど、祐子の様子に変わったところは見受けられませんでした。疑惑が完全に払拭された訳ではありませんでしたが、とりあえず少し安心しました。何れにしても、事の真意を確かめる術など私にはないのですから。若い男に抱かれる妻の淫らな肢体を頭から追い出し、私はリビングへ向かいました…。
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