妻と男の物語


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場末のスナック(2)

[8266] 場末のスナック(2) 安さん 投稿日:2009/12/28 (月) 14:59
高校を卒業後、電気会社に就職した私は二十七歳の時に結婚、その翌年には娘が生まれた。この不景気の中仕事は安定していて、妻との夫婦仲も問題はない。私は幸せな生活を手に入れていたが、その一方で、安穏な日々にどこか物足りなさを感じていた。
三日前、夢を見た。夢の舞台は『スナック・京子』で、薄暗い店内でママが豊満な体を悩ましく揺らし、酔いどれ客とチークダンスを踊っている。
目を覚ました私はひどく興奮していた。隣で妻と二歳になる娘が安らかな寝息を立てる中、私は天井を見上げ、見たばかりの夢を思い返した。すると、十五年前の淫靡で退廃的な思い出がはっきりと蘇ってきて、パジャマの中の股間が煮えくり返った。
私は妻と娘の寝顔を見つめながら、ママに会いに行こうと決めた。

時刻は正午を過ぎたところで、まだ店は営業していない。もしかするとママはまだ寝ているかもしれないなと思いながら扉に手を掛けると、木製の重い扉には鍵が掛かっていなかった。
「誰?店は七時からよ」
中から煙草と酒で焼けた年増女のハスキーな声が聞こえた。店内に足を踏み入れると、ママの京子がカウンター席に座って伝票の整理をしていた。
「ご無沙汰してます」
そう言って軽く頭を下げる私の姿を、ママは怪訝そうに見つめてくる。寝起きの腫れぼったい目が、私が何者なのかを懸命に探っていた。
ママが気付かないのも無理はない。最後に会った時、私はまだ青臭い中学生だったのだから。
「ほんまにヒロちゃんか!?いや~、すっかり大人になって!全然分からんかったわ!」
私が名前を告げると、警戒の色が一瞬で消え去り、ママは飛びつかんばかりの勢いで私の手を握り締めた。
ママは私をボックス席に座らせ、ビールを出してくれた。私は瞬く間に十五年前へとタイムスリップしたのだ。

青臭い中学生を一家の大黒柱へと変えた十五年の年月は、女盛りだったママの姿もすっかりと変えてしまった。豊満な肉体には更に大量の脂肪が付着し、目鼻立ちの大きな派手な顔には皺が目立っている。
だが私に失望はなかった。幼少期の影響で年上の年増女にしか性的な興奮を覚えられなくなってしまった私にとって、目の前のソファーに豊満な体を沈めるママは理想的な女であったのだ。
五十路を大きく超えているにも関わらず、ママは時代遅れの派手なカールヘアーを茶色に染め、寝起きの顔を厚化粧で塗りたくっている。豊満な肉体からは安物の香水をプンプンと匂わせ、ワインレッドのマニュキュアが塗られた指に細長い煙草を挟んで、分厚い唇から妖艶に白い煙を吐き出している。煙草の白いフィルターにべっとりと付着した紅い口紅に、私は昭和の匂いを感じ取った。

「そうか、お父さん、亡くならはったんや・・・」
昨年に父が死んだことを伝えると、ママはヤニが染み付いた天井をしんみりと見つめ、そして新しい煙草に火を点けた。
私が店に行かなくなった後、ママは三度目の結婚したという。ママはその新しい夫を三年前に肺癌で亡くした。
「大切な人がみんな亡くなっていくわ。私ももう歳やね」
ケバケバしい紫のアイシャドーが塗られたママの目にうっすらと涙が滲んだ。
店に入って三十分が過ぎた頃、私は持参した鞄を手元に引き寄せた。
「今日はママにプレゼントを持ってきたんや」
「え、何でプレゼントなんかくれるん?」
「昔、親父と二人でお世話になったお礼や」
私は鞄の中からプレゼントを取り出し、ママに手渡した。それは駅前の薄暗い薬局で買った黒のパンストであった。
「・・・あ、ありがとう・・・」
意外なプレゼントに表情を曇らせるママに、私は次のプレゼントを渡した。安っぽい包装紙に包まれた長方形の箱を開けたママは「ヒィッ」と短い悲鳴を漏らし、放り投げるようにして箱を手から落とした。
「あ、あんた、な、何をしに来たんや!?」
ママの厚化粧の顔面が見る見るうちに紅潮していく。ママは恐怖が滲む大きな目で、私をキッと睨みつけた。
薄汚れた紅い絨毯の上に、男性器を模造したグロテスクな形の電動こけしが転がっている。落ちた拍子にスイッチが入った淫具は妖しい電動音を響かせ、頭を卑猥に振り乱して、絨毯の上を這った。
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