妻と男の物語


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2年前、それから21

[3711] 2年前、それから21 忠太郎 投稿日:2008/04/20 (日) 17:29
〔由紀江〕
木村の別邸も完成し、健次の設計事務所としては、上々の成績でその年を締めくくったので、正月の休みをたっぷりと取ることにした。
勿論、子どもたちへの家族サービスもたっぷりあったが、その話をしても、誰も興味がないだろうからやめよう。
実は、木村からの紹介で、藤本からも仕事の依頼があったのである。
普通なら、仕事を貰う健次のほうでセッティングしなければならないのだが、藤本が料亭をセットするから裕子と二人で来てほしいとの連絡があった。
二人で来てくれということは、裕子が目当てなのは、藤本の性格から考えて察しがつく。裕子も、そんなことを解らないほどほど、もう初心ではない。

藤本は、木村とは違う。木村の紳士的な洗練されたスマートさはない。どちらかと言えば、泥臭い感じさえする。由紀江と藤本が並ぶと、“良家の奥様を掻っ攫ってきた山賊”というとあまりに藤本に失礼だが、藤本に比して、由紀江には凛とした品がある。といって気取りはない。
藤本は、裸一貫から叩き上げてきた自信というものが滲み出ている。いいスーツを着て、高級車を乗り回していても、その匂いを隠すことはできない。だが、藤本も由紀江と同様に気取りはなく、そんな垢抜けない自分を平気で曝け出している。その辺は、格好をつけている成り上がりと違って好感が持てる。

セックスも木村と違って、藤本は野獣が女を犯すように見える。忘年会で、藤本に抱かれる裕子を見ていた健次は、そのワイルド感に体中がゾクゾクしたのを思い出していた。
あの時は藤本に対する嫉妬を、絹のようなしっとりとした肌の由紀江を、犯すように乱暴に抱くことで紛らわせた。雅子にも、真由美にも同じように体を合わせた。
藤本は、決して女性を乱暴に扱うわけではないが、彼の風貌からそのように映るのである。藤本の優しさは抱かれた裕子がよく知っていた。
“由紀江が、藤本を慕っているのは、この優しさなんだ”と、裕子は理解していた。

その日の由紀江は和服だった。もっとも、この料亭は由紀江が経営している店であり、この店の女将なのだ。
接待で店を利用した藤本が、女将である由紀江に惚れ込んで通い詰めたのである。
健次と裕子を玄関で迎えたのは由紀江だった。由紀江に案内されて離れの間に通された。そこに藤本が居た。そこは、いわゆるお座敷ではなく、由紀江のプライベートな住まいだった。
由紀江が料理などの手配りのために席を立った間、藤本と三人で少しぎこちない時間が流れた。
藤本は、木村のように話が上手ではない。健次も上手い方ではない。そんな二人を見ていた裕子がくすっと笑った。
「なんか二人とも、可笑しいわね。まるで、お見合いしてるみたいよ」
裕子の言動には、計算というものがほとんどない。健次は、何度もハラハラした様なことも経験している。

健次は、そんな、無口で無骨ともいえる藤本に悪い印象はもたなかった。藤本も同様であった。お互い、裕子の一言で、救われた様な気がした。
藤本は、健次に依頼する工事の概要を簡単に話したが、後日、具体的に打合せをすることとし、別な話題に切り替えた。そこに、料理といっしょに由紀江が入ってきた。

由紀江は、あの蔵の中で、藤本の陰に隠れるようにしていた由紀江ではなかった。
流石に料亭の女将だけあって、でしゃばらず、かといって退屈をさせることもなく、健次と裕子をもてなした。
「そうなんです。藤本は、毎日通ってきたんです。始めはお客様ですから大事にしましたけど……」
「でも、そんなに、自分のために通ってくれたら、嬉しいですよね」
「初めの頃はね。その頃はいつもプレゼントをしてくれたり、何処かへ連れて行ってくれたりしましたけど、今は何にもしてくれません」
「そうなんですか。そういえばうちも最近、変な処ばっかり連れて行かれるだけで………」
言いかけて裕子は、“しまった!”と思い、顔を真っ赤にして健次の背中に隠れた。
元はといえば、“変な処”へ誘ったのは、裕子であった。そんな自分の言葉に自分で恥ずかしくなったのだろうか。
由紀江も藤本も、そんな屈託のない裕子を見て微笑んだ。由紀江が健次の脇に座ってお酌をした。
「裕子さん、今日も“変なところ”でごめんなさいね。わたしね、健さんが好きになりました……」
「いいですよ。でもあげませんよ。パパはあたしのもの……」
少し、酔ってきたらしい。裕子の眼が妖しく潤み始めていた。
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