妻と男の物語


スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告


悪魔のささやき19

[4999] 悪魔のささやき19 ナオト 投稿日:2008/10/22 (水) 22:38

「ま、、待ってください。」
真由香はギリギリのところで握りこぶしを作ってルミを静止した。
「さっきからトイレを我慢してるんです。もう限界なんです。トイレだけ先に行かせてください。」
真由香の冷静な判断だ。もうこの男の言うことなど聞く気はなかった。ここは一旦従順に振舞うように見せかけたのである。
矢崎はしばらく真由香の目を見ていたが、
「いいよ。いってらっしゃい。その代わりちゃんと最終試験頑張るんだよ?」と瞳に不気味な笑みを浮かべて言うのだった。

真由香は「はい」と少し沈んだ声で答えて、席を立とうとした。そのほんの一瞬、気の緩んだときだ。
真由香の手はべっとりとした熱い大田の肉根を握らされていたのだ。
あっ、という真由香の短い叫びと、「離すんじゃない!」という矢崎の鋭い声が交叉した。
「そのままじっとしてろ、3秒でいい!」と有無を言わせぬドスの効いたダミ声で真由香を凍りつかせたのである。
ついさっき真由香を震え上がらせた鬼の形相で睨まれ、真由香はすくんだように一瞬固まってしまう。

時間が止まったような空気のあと、ニンマリと表情を変えた矢崎が声をかける。
「もう、いいよ。真由香ちゃん、トイレ行っといで。」
真由香は目に涙をためて、ふらふらとよろめく身体で逃げるように席を立った。


矢崎、大田、ルミの三人はカクテルから水割りに変えて再び飲み始めていた。真由香が席を立ってすでに30分を過ぎていた。
「いやあ、それにしても今度のは上物だな、矢崎。」
大田は上機嫌で赤ら顔をさらに赤くして、唾を飛ばしながら品のない笑い声を出す。
「今度のは、ってヒドイっすよ、大田さん。まるでいつもロクでもないのしか連れてこないみたいじゃないっすか。」
矢崎の口調は、真由香の前でのインテリぶったものとは異なり、まるでチンピラ然とした別人そのものなのである。

「周ちゃんの演技にはいつもながら感心するわ。あたし、先生って呼ぶたびに必死に笑いこらえてたんだからね。」
ルミはピーナッツをボリボリかじりながら、矢崎をからかう。
「こっちだってその周ちゃんってのが、あの奥さんの前でポロっと出ないか心配してたんだ。」
「それにしてももったいないな。あのままやっちまえたんじゃないのか?」
「いえいえ、大田さん、あせっちゃ駄目なんスよ。まあ安心してくださいよ。もう網にかかったも同然なんスから。」

矢崎は真由香がトイレに行ったまま帰ってこないことも計算済みだった。もう今頃は山手線にでも乗って渋谷あたりを過ぎてる頃だろう。
清楚な若妻といった外見に似合わない、酒臭い息を吐いて電車に乗ってる真由香を想像するだけでも嬉しくなるのである。
「どれくらいかかりそうだ?」大田の問いかけに矢崎は自信満々に答える。
「三ヶ月見といてください。いい感じに仕上げますから。」

そのやり取りがどういうものなのか、ルミは全て知っているような口調で口をはさむ。
「ねえ、その後うちの店で働かせたら?あの奥さんなら絶対ナンバーワンになるわよ。」
「おいおい、さっそくソープ嬢にスカウトか?俺は一年は囲いたいんだ。」
大田がルミに口尖らせて言うのを、矢崎はニヤニヤしながら聞いていた。


真由香が帰宅したのは、貴彦が真貴を寝かせつけて一時間ちかく経った午後十時頃だった。
貴彦は実家に真貴を迎えに言った後、勧められた食事も取らずすぐに自宅に戻った。
それからの二時間半近くが、気が遠くなるほど長く感じられた。
長くなればなるほど、狂おしい焦燥感に掻きむしられ、気がつくと股間に手が伸びてしまうのだった。

「ただいま」と言ういつも通りのはつらつとした真由香の声が意外だった。
「ごめんねー。大学の友達に偶然会っちゃったの。ちょっと酔っ払っちゃった。」
貴彦は目いっぱい平然とした声を装い真由香を迎えた。
「珍しーな。真由香が外食するなんて。ま、たまにはいいか。」
「ほんとごめんっ。明日はごちそう作るね。」と真由香は手を合わせておどけると、「真貴もう寝た?」と貴彦とは目を合わせず寝室に向かった。

すれ違い様、貴彦は息を吸い込んだ。
真由香は香水はほとんど付けないが、いつもかすかにシャンプーのような石鹸のようないい匂いがする。
今、すれ違った真由香からは、アルコールと煙草臭い匂いがして、貴彦の心臓はドクンと音をたてた。
真由香は今日、あの矢崎と食事をしてきたんだ…。信じられないような気持ちのまま、貴彦は真由香の様子に変化はないか、観察してしまう。

ベッドの真貴に布団を掛けなおしている後姿もいつものままだ。
「真貴ちゃん、ごめんねー」と言いながら娘の頭を撫でている。優しいいつも通りの自慢の妻だ。
振り返った真由香が問いかけた。
「電話したんだよ。お風呂でも入ってたの?」
「え、、ごめん、ちょっと疲れてウトウトしてたんだ、、」
胸が痛んだ。電話に出るな、という矢崎の指示があったのだ。

真由香は疑いもせず両手でウチワを扇ぐような真似をしながら、
「シャワー浴びていい?汗かいちゃった。」
と浴室にパタパタ、これもいつもの早足で消えた。
何も変わってない。
いつもの、普段どおりの真由香だ。
嘘をついて矢崎と食事をしてきたのに、まるでいつも通りの真由香を、複雑な気持ちで貴彦は見送った。

いや、食事だけなのか?あの矢崎のことだ。何をしたか分かったものじゃないのだ。
浴室からシャワーの音がするのを聞きながら、貴彦は自分の部屋のパソコンに向かった。
新着メールが矢崎から届いていた。
関連記事

  1. 2012/12/26(水) 06:43:09|
  2. 悪魔のささやき
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0


<<悪魔のささやき20 | ホーム | 悪魔のささやき18>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://tsumaotoko.blog.2nt.com/tb.php/892-8b70d722
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)