妻と男の物語


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悪魔のささやき20

[5014] 悪魔のささやき20 ナオト 投稿日:2008/10/25 (土) 00:16

火曜日。
貴彦はアートディレクターとともに、ロケハンで都内の公園に来ていた。
さすがに真夏の昼間、外仕事はきつい。
年下のディレクターがデジタルカメラであちこちを撮影しているのを眺めながら、貴彦は木陰のベンチに座った。
偶然にもこの公園は、あの矢崎と初めて会った場所だ。今掛けているベンチの、隣りだった。
貴彦は昨日の夜のメールを思い出す。


『佐々木さん、まいど。^^
今日は奥さんと楽しい食事をさせて頂きました。
残念ながら、まだそういう関係にはなってませんが、
リミットの日曜日までには何とかしますので、期待してお待ちください。
必ずいい報告が出来ると思いますので。

それにしても、さすが真由香さん、固いっすねー。(^_^;
こっちもやりがいありますよー。
あ、それから明日なんですけど、昼間たぶん真由香さんを借りることになります。
夕方には戻してあげられると思いますが、よろしくお願いしますm(_ _)m』


真由香を借りる?どう借りるつもりだ。
不安とともに矢崎の挑発的な態度に怒りも湧いてくる。何が、まいど、だ。
夕方には戻してあげられる、だと?
真由香はOL時代、隠れファンがいるほどだった。そんな多くのライバルの中、貴彦が熱烈なアタックをして射止めたのだった。
(…お前など、普通だったら真由香と関わることすら出来ない野郎なんだ、、)

心の中で矢崎に毒づきながらも、それに反して狂おしいような反応を見せる自らの情欲を呪うのである。
そもそも自分から仕掛けたこととはいえ、貴彦は日増しに暗澹たる不安が心の中でどんどん肥大していくのを感じていた。
真由香を落とすことなど出来るはずがない、という楽観した気持ちが揺らぐにつれ、最近は仕事も手に付かなくなってきている。
かと言って、真由香に打ち明けることなど出来るはずもない。もはや後戻り出来ないところまで進んでしまったのである。

本当に真由香がやられてしまったら、自分はどうなるのか。貴彦は正常でいられる自信すらなかった。
矢崎は明日、どうやって真由香を再び誘うつもりか。メールでの問いかけに対し、矢崎からの返答はなかった。
昨日の食事で何かあったに違いない。真由香がそんなに軽い女でないことなど、誰よりも貴彦は知っていたからである。

「佐々木さん、大丈夫っすか?」
顔を上げると、ディレクターの高橋が缶コーヒーを片手に心配そうな表情で見ていた。
「どーぞ。」貴彦は、サンキューと言って缶コーヒーを受け取ると額に当てた。
「最近、疲れてるんじゃないすか?ぼーっとして佐々木さんらしくないっすよ。」
人のいいこの28歳の有能な男は、年下なのに何かと頼りになる。

「お前、まだ結婚しないの?」
「彼女いないっすよ。それに、今の忙しい状況じゃそういう気にもなんないです。
佐々木さんの奥さんみたいな美人だったら結婚もいいかな、とか思いますけど。」
屈託のない笑顔で言うと彼はコーヒーを飲み干し、再びデジカメで撮影を始める。

誰からも羨ましがられるその妻を、他人に寝取られるまでのカウントダウンが、すでに始まってるんだ…。
高橋にそう言ってしまいたい気持ちで撮影の様子をぼんやり見ながら、貴彦は甘い缶コーヒーをごくりと飲んだ。
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