妻と男の物語


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悪魔のささやき21

[5055] 悪魔のささやき21 ナオト 投稿日:2008/10/28 (火) 20:48

貴彦が炎天下の公園で矢崎のメールを思い出しているその頃、真由香はベビーカーの真貴を連れて買い物から帰ってきた。
ポストに真由香宛てのメール便が入っていた。差出人にはナイトエレガンスとある。
覚えがなかったが、どうせダイレクトメールまがいのものだと思った。
玄関のキーを開けて、眠ってしまった真貴をベッドに寝かせると、メール便の封筒は台所のテーブルに置いたまま、買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。

料理好きの真由香の頭の中ではすでに今夜の食卓がイメージされていた。
貴彦の好物の鶏の唐揚げ、葱をたっぷりまぶしたマグロのたたきに、栄養バランスも考えて茄子の煮物と和風サラダも添える。
下準備にかかる前に、喉が渇いたので麦茶をコップに注ぎ、ゴクゴク音をたてて飲んだ。
昨日は酔っているのにあまり眠れなかった。
帰宅して、玄関で貴彦の顔を見た瞬間、泣きそうになった。シャワーを浴びながら泣いた。
今更ながら自分は迂闊だったと思う。もう二度と天城のところへは行かない。

コップを置いて、テーブルのメール便に目が止まった。
封筒の上を丁寧にはさみで切ると、一枚の紙で折りたたむように、数枚の写真が出てきた。
写真を見た瞬間、真由香の身体が凍りついた。
写真は全部で五枚入っていた。いずれも真由香自身が写っている。

あの中華料理店で、大田に密着したまま、真由香がビールを大田のグラスに注いでいるもの。
大田に抱きかかえられながら、笑顔になっているもの。
そして大田の頬に真由香がキスしているもの。
そして、大田に寄り添いながら、あの店に入る場面。その店の看板を見て驚愕する。
まったく気づかなかったが、そこには『カップル喫茶あばんちゅーる』とはっきり書いてある。
そして何より衝撃を受けたのは、真由香が大田の男性器を握っている写真だった。
テーブルの下から撮られているようだった。顔は見えないが、服装で真由香と分かる。

写真を持ったまま手足が震えてくる。テーブルの上に写真を投げつけた。いったい誰がこんなことを…。
天城の仕業か、それとも大田?
そうだ、昨夜トイレへ行くと言ってそのまま帰ってしまったことを根に持っているんだ。そうに違いない。
恐怖感が真由香を襲い、誰かが見ているような気がして部屋をきょろきょろする。
頭が真っ白のまま、しばらく動けなかった真由香だが、写真を包んでいた紙切れに何か書いてあるのに気がついた。
下手くそな字でそこにはこう書かれていた。


『佐々木真由香さん、
人妻さんなのに随分と大胆ですね。
これを旦那さんが見たら、どう思うでしょうか。』


真由香の額を冷たい汗が流れた。メール便で送られて来たということは、住所も知られている。どう調べたのだ。
そして、これは脅迫ではないか。しかし、封筒の中をもう一度確認しても、それ以外何も見当たらないし、紙切れの文章もその三行だけだ。
何の要求もないことが、かえって不安な心を煽られる。天城か大田か、どちらか、いや二人は共謀しているのかも知れない。
しかし、中華料理店での写真は天城の肩も写っているので天城や大田、そしてルミが撮ったものではないことが分かる。
第三者がいたのだろうか。

真由香は完全に動転していた。とにかく天城に電話してみよう。
自分の苗字を知っているのはあの男だけだ。きっと何か関係しているに違いない。
置き電話の前まで来て、一瞬ためらった。理由もなく不吉な予感がした。少しの間のあと、震える指で携帯番号をプッシュした。
三度目のコールで、生理的に受け付けない、あのダミ声が返ってきた。
「はい、天城鑑定室ですが。」

「あ、あの、、私、佐々木といいますが。」
真由香が震える声で言うと、電話の向こうの声は何かしらばっくれた調子だった。
「佐々木さん?」
「は、はい、、昨日はどうも、、」
今すぐに大声で問いかけたい気持ちだったが、やはり得体の知れない恐怖心から気持ちがすくんでしまう。
「あー、真由香さんですか。昨日はどうしちゃったんですか?いきなり消えちゃうから心配しちゃいましたよ。」

いかにもわざとらしい口調に聞こえ、真由香は苛立ちを隠せなくなる。
「写真のこと、知ってるんですよね?」
毅然とした声で、真由香はいきなり本題を切り出す。
「写真?」何のことですか?と矢崎は問い返す。
「とぼけないでください。昨日私が勝手に帰ったから根に持ってるんですか?!」
そこまで言ってから、真由香は重大なことに気がついた。
写真はすでに撮られていたのだから、帰ったこととは関係ない。
言いたいことは山ほどあるのに、頭が混乱して理屈が通らない言葉になってしまう。

「おっしゃってることがよく分かりませんな。写真だとか、根に持ってるとか。」
自分の苗字まで知ってるのはこの男だけだし、あのいかがわしい店のテーブル下で撮影するにもこの男が関わっていなければ不可能だ。
真由香は全て真正面から話すしかないと、心を決める。
今日メール便で、どんな内容の写真が送られてきたか、そしてどんなメッセージが書いてあったかを直接矢崎にぶつけた。
「そりゃ、ちょっと厄介なことですねー。」
矢崎は神妙ぶった声で続ける。
「実はあの近辺で最近よく耳にするんですよ。不倫カップルに狙いをつけて金をふんだくる奴がいるってね。」
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