妻と男の物語


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悪魔のささやき22

[5070] 悪魔のささやき22 ナオト 投稿日:2008/10/30 (木) 21:52

矢崎の言葉に驚愕するが、とてもにわかには信じられない。だいたい写真は誰が撮ったのだ。
「で、でも、、あんな写真を撮ることが出来るのは、貴方たちくらいしかいないじゃないですかっ。」
「これは心外ですねえ。私は奥さんのためを思ってカウンセリングしてあげたのに、まさかそんな疑いをかけられようとは。
それに今時カメラなんてどこにでも仕掛けられます。ピンホールカメラなんかもありますし、暗くても十分撮影も可能ですよ。」

どこか薄笑いを浮かべたような言い草に、真由香は憤然とした思いが込み上げて何と言い返していいか分からなくなる。
貴方の言うことなど、信じられるものか、と言おうとしたとき、矢崎は何か含みのあるような話しぶりに変わった。
「ただねえ、奥さん、私も心当たりがない訳じゃないですよ。これでも結構あの辺りでは顔が利きまして。」
私の一存で犯人を割り出して、口を封じることが出来るかも知れない、と尤もらしいことを言うのである。

「は、、犯人の心当たりがあるとでも言うんですか?」
「まあ、あのカップル喫茶に出入りしてる連中はだいたい分かりますから。」
矢崎の言葉など、決して鵜呑みにはしない真由香だったが、かと言って他にどうすることも出来ない。
とにかく、あんな写真を貴彦に見られるのだけは避けなければならないのだ。

「おねがいですっ。写真を主人に見られたら困るんです。」
矢崎は待ってましたとばかり、真由香に告げるのだ。
「分かりました。何とかしますので、とりあえず、明日こちらまで来てもらえますか。」


水曜日。
真由香は約束の午後1時に新宿の天城鑑定室に着いた。
これは罠なのではないか、という不安は当然あった。しかし住所まで知られている以上、じっとしているのは余計に恐怖だった。
真貴は自由が丘にある託児所に預けた。貴彦の実家に頻繁に預けるのも気が引けたし、何より貴彦に理由を言えないからであった。
結婚以来、貴彦には何でもガラス張りにしてきたのに、こんな風に隠し事をしなければならないのは、心が痛んだ。
そして、娘の真貴に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

雑居ビルの中の、相変わらず薄暗いじめじめとした廊下を歩いた先に、天城鑑定室があった。
「どうぞー。」ドアをノックすると忌まわしいダミ声が返ってくる。
天城、いや矢崎はドアを開けたすぐの応接セットのソファに腰掛けていた。
メーカーロゴの入った黄色いくたびれたポロシャツに、脛のあたりまでの丈の白いパンツは、一瞬俗に言うステテコのように見えた。
足元はサンダル履きで腕には金色のロレックスが光っている。
年甲斐もない茶色の短髪がまるでチンピラそのものといった感じで、会うたびに品がなくなっている気がした。

「どうぞ、お掛けください。」
貧乏ゆすりをしながら、にやついた顔で真由香を手招くと、ペットボトルのウーロン茶をゴクゴク飲んでいる。
真由香はソファに座らず、緊張した面持ちで立ったまま、矢崎に向かって言った。
「私は貴方を信用してるわけじゃありません。正直、疑っています。もし、変なことをしたら警察を呼びますので。」
「心配しなくても、犯人のメボシは付きました。まあ、僕の顔で何とかもみ消すことは出来そうですよ。」

矢崎の言葉に真由香はすがるような表情になる。
「お願いします!写真は絶対主人に見られたら困りますっ。」
矢崎は、まあまあ、と真由香になだめるような口調で、
「とにかくじっくり話しましょうよ。」とソファに腰掛けるよう促すのだ。
「犯人が分かったとおっしゃいましたけど、どうして私の住所や氏名まで分かるんですか?ちゃんと説明してください。」

ようやく腰掛けた真由香は、激しい声で矢崎に問いかける。
「僕も知らなかったんですが、実はあの中華料理店は一月前に暴力団に買収されてましてね、どうもそこの店員が一枚かんでいるようなんです。」
暴力団という言葉に真由香の表情が見る見る青ざめていく。
「ほら、あの時金沢がどうのこうのって話、してましたよね?
今は情報社会ですから、金沢、真由香、というたった二つのキーワードでも色々調べる奴だっているわけなんです。」

真由香の膝が小刻みに震えているのを、チラリと横目で見ながら矢崎は立ち上がると、ソファの隅に置いてあったノートパソコンをテーブルに乗せた。
矢崎は何やらキーをしばらく打っていたと思うと、パソコン画面をくるりと真由香の方に向けた。
「そこにあるファイルをクリックしてみて下さい。」
画面にはあろうことか『真由香フォルダ』なるものが存在し、真由香jpg1から真由香jpg20までファイルが入っている。

ファイルを恐る恐るクリックすると、案の定見覚えのある写真が表示された。
真由香に送られてきた五枚の他、ルミとキスしているものや、どさくさに紛れて大田が真由香の胸の辺りを触っているようなもの、
しな垂れかかるように大田に寄り添ってレジの前に立つ真由香の姿などがあった。
真由香は怒りと恥ずかしさで顔面を真っ赤にしながらも、冷静になろうと必死だった。

中華料理店は今の説明で納得いくとしても、あの店のテーブル下の写真だけはどう考えてもおかしい。
ひとつでも矛盾があれば全てが出鱈目ということになるのだ。
「実はその暴力団というのが、中田組と言いましてね。
あのカップル喫茶は運の悪いことに中田組のチェーン店なんですよ。」
何でも、店で隠し撮りしたものを裏物のDVDなどで販売している、などと矢崎は続けるのだった。
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