妻と男の物語


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悪魔のささやき23

[5103] 悪魔のささやき23 ナオト 投稿日:2008/11/03 (月) 14:44

暴力団だの裏DVDだのといった身の毛のよだつような単語に、得体の知れない矢崎にすら、すがりたい気持ちになってしまう真由香だった。
「お、、お願いしますっ、こんな写真今すぐ削除してください!」
矢崎は黙ったまま、ペットボトルのウーロン茶を飲んでいる。
「話がつきそうって、どういうことでしょう。お金ですか?」
真由香が涙目でそう訴えると、矢崎はほくそ笑むような細い目で睨み返し、馬鹿にするような口調で言った。

「奥さん、暴力団を甘く見ちゃいけません。」とマルボロに火を付けると、
「奴らも一主婦に自由になる金なんてたかが知れてるのは分かってます。
風俗で働かせるのが一番効率的だ。とくに奥さんのような美人ならね。」
風俗、、真由香は寒気がした。自分とは縁のない世界だと思っていた言葉が次々と出てきて、足元から力が抜けていくのである。

「素人主婦で美人の貴女ならば、高級会員店で月200万は稼げる。いや、その気になれば300万だっていける。
二年もやってりゃ五千万近くの売り上げになるんですよ。そんな金、用意できますか?」
真由香は慄然とした表情で聞いていたが、思い出したように怒りが湧いてきた。
「だ、だいたい貴方があんなことさせなければっ。貴方のせいですっ。」
狭く湿っぽい事務所内に響き渡るような声で、真由香は食い掛かったのだが、矢崎はまるで緊張感のない様子で、苦笑いまで浮かべながらポリポリと頭を掻くのである。
「いやあ、その点に関しては責任感じてます。めんぼくない。」などと、
おどけた調子で手を合わせるのを見て、真由香はギリギリと奥歯をかみ締めながら、握りこぶしを震わせるのだ。

「ですから、そのお詫びと言っては何ですが、私はこう見えても財界にも顔が利くんです。」
矢崎のセリフに、それまで怒りに歪んでいた真由香の瞳に少しだけ光が戻る。
「色々と手を回して、彼らからこの件は手を引かせました。」
「ほ、本当ですか?」
真由香は身を乗り出して声を上げる。
「しかし、出費は当然かかりましたし、あくまで案件を彼らから譲り受けたまでです。」
何か奥歯に物の挟まったような言い方に、安心しかけた気持ちが再び揺らぐ。

「どういうことですか?は、はっきりおっしゃってください。」
矢崎は煙草をもみ消すと、じろりと真由香を見つめながら、
「500万で貴女を買ったんです。ま、私だからそれで済んだとも言えますがね。」
などと、平然と言ってのけるのである。

貴女を500万で買った、という矢崎の言葉がいつまでも真由香の頭の中で反芻されていた。
いったいこの男は何を考えているのか。自分の未来を暗い壁で塞がれたような気分で、言葉も出ない。
「ご、500万…!、そ、そんな大金、今すぐには無理ですが、、でも、何とかローンとかなら、、」
真由香の言葉をさえぎる様に矢崎が片手を上げる。
「奥さん、言いましたよね。私だから500万で済んだんです。勘違いされては困る。」
そこまで聞いてもなお、自分の置かれた状況というものを真由香は理解出来ない。

「いいですか、私の気持ちひとつで、貴女を一千万で売ることだって出来るんです。
需要があるということですから、ある意味、貴女はラッキーでもあるが。」
「わ、、分かり易く言ってください。さっぱり意味が分からないですっ。」
矢崎はクレーターの浮かんだような頬にニンマリと笑みを浮かべ、
ようやくこの時がきた、という風情で告げた。

「私は貴女を一目見たときから惚れちゃいましてね。」
真由香は身体から、さーっと血の気が引くのを感じた。瞬間的にこの部屋の空気を吸うことにすら嫌悪を覚える。
「貴女の選択肢は二つです。写真を旦那さんに見られるか、それとも、
、、私と一夜を共にするか。」
ひどい、、矢崎の言葉が終わるや否や真由香はそう呟く。
「貴方は占い師の方ですよね。少なくとも神様とかに通じる仕事をされてるのではないですか。恥ずかしいと思わないんですか!」
未だに矢崎を天城蒼雲と疑わない真由香が滑稽である。
「私も人間です。人を好きになることは自然の摂理でもある。」

真由香はすごい勢いで目の前のパソコンを引き寄せた。
『真由香フォルダ』をゴミ箱に消去し、額に汗を浮かべながら矢崎を睨む。
「そんなことしても無駄です。そのファイルはいくらでもコピーしてある。貴方次第では今すぐご主人の会社にメールで送ることも出来ますよ。」
ま、男性と飲み歩いたり、キスしたり、あれを握っても平気な旦那さんなら別ですが、
と矢崎は煙草に火をつけ、
「一晩考えてください。オーケーなら明日夕方5時までにここへ来ること。
来なければ、その時点でご主人にメールします。」

泊まりになりますから、うまいこと理由考えてくださいね、と言う矢崎のダミ声が、呆然とした真由香には、どこか遠くから聞こえるような感覚だった。
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