妻と男の物語


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悪魔のささやき24

[5140] 悪魔のささやき24 ナオト 投稿日:2008/11/07 (金) 11:48
mmさん、ネットワークさん、ろんさん、Yさん、ジャンクさん、CANDY♪さん、ありがとうございます。


貴彦は、塩分控えめの青椒肉絲を味わいビールを流し込む。
傍らの真貴が「はい、どーじょ」と、貴彦に自分の皿のプチトマトを差し出すのを、
「お、パパにくれるの?うれしーなー。」と言って頬張る。
「真貴ちゃん、やさしーねー?パパ嬉しいって。」
真由香はニコニコしながら真貴にそう言って、グラスにビールを注いでくれる。
真由香の注いでくれるビールは、どんなビアホールの生ジョッキより旨い。こんな幸せに恵まれながら、自分は何という男か。
今日、真由香が矢崎と会って来た痕跡を探している自分に呆れてしまうのである。

真由香はいつもと変わらず明るかった。昼間はこの真貴をどこかに預けたのではないのか。
そんなそぶりも見せない。やはり、矢崎の呼び出しなどに応じなかったのだ。
真由香があんな怪しい男に簡単に騙されるはずない、とどこかホッとした気持ちにもなるのである。
しかし貴彦が食事を終わって居間のソファに横たわり、テレビのナイター中継を見ている時、のん気な考えは一気に吹っ飛んだ。

「ね、貴ちゃん。」
うとうとしかけた目を向けると、真由香がいつになく神妙な顔つきで立っている。
「この前偶然友だちと会って食事したことあったでしょ。」
「うん。」貴彦の心臓がドクンと音をたてた。
「彼女、知り合いと温泉行くつもりだったんだけど、急にその人が行けなくなったらしいの。
今更キャンセル出来ないし、お金はいらないから一緒に行ってくれないかって言うの。」

胸の辺りがキューンとする。
「そ、、そう?」
何とか平静を装って貴彦は訊いた。
「それで、いつ?」真由香の返事を聞いて、貴彦は全身の力が抜けていくような感覚だった。
「それが、急で悪いんだけど、明日なの。」

自室のパソコンの前で、貴彦はまるで魂の抜け殻のようになってぼんやり画面を見ていた。矢崎の新着メールは、たった一行の短い文章だった。


『明日、ようやく初夜を迎えられそうです。』


妄想のはずだった。単なるゲームのつもりだった。しかし、ついにそれが現実のものとなるのだ。
真由香がやられる。あの真由香が矢崎と情を結ぶのである。
どんな手段を使ったのか。何度もメールしたが、矢崎から返事はなかった。
止めなくていいのか。今全てを真由香に話し、謝れば、、。真由香は狂ったように怒るだろう。
それでもいいではないか、彼女がやられてしまうんだぞ。あんな男に。本当にいいのか?
真由香はさっきすがるような目で言った。

「ねえ、無理しなくていいんだよ。駄目なら断れるんだから。」
しかしついに、貴彦は真由香の外泊を許可してしまったのである。真由香を守る最後のチャンスを逸したのだ。
真由香が何か言いたいような、一瞬哀しい瞳をしたのを貴彦は見逃さなかった。

木曜日。渋谷駅のホームで立ち尽くしたまま、真由香は何本かの電車をやり過ごした。
もし、こんなところを貴彦に見つかったら何の言い訳も出来ない。自分はすでに箱根の温泉にいることになっている時間だからである。
それでも真由香は心のどこかで見つかって欲しいという気持ちがあった。貴彦に嘘がばれて叱られようが、それでもいい、見つけて家に連れ帰って欲しかった。
しかし、そんな偶然もあるはずがなく、刻々と指定された時間だけが近づくのである。

時計は4時30分を指していた。真由香は山手線に乗り、ついにあの男の元へ走り始めたのである。
必要のない旅行バッグが空しかった。デパートの物産展で箱根土産まで用意したことも情けない。
昨日の夜、自分からベッドで貴彦に抱きついた。貴彦はいつもより強く抱きしめてくれた。優しいキスをくれた。
でも、それ以上は求めてこなかった。もう随分と愛し合っていない。きっと、仕事のことで頭がいっぱいで疲れているのだろう。それなのに自分は。
(ごめんね)貴彦に抱きしめられながら、何度も心の中で呟いた。

ドアを開けて俯いて立っている真由香を見て、矢崎はため息をついた。
「ほおっ。」
真由香は白地に控えめな模様をあしらったシフォンのワンピース姿だった。膝より少し上までの丈が、真由香の愛らしさを強調している。
今までパンツ姿しか見ていなかった矢崎は、ワンピース姿の真由香に改めて見とれているのである。実は昨日の帰り際に矢崎が指示したのだ。
「あ、そうそう、奥さん。明日来てくれるとしたらスカートでお願いしますよ。出来ればミニがいいんですが、ま、贅沢は言いません。」

ミニではなかったが、約束を守ってくれたことに矢崎はほくほくした顔で、
「いやあ、可愛らしい。まるで、どっかのお嬢さんみたいだな。」と言うと、真由香の鞄を事務所に置いて、さっそく行きましょう、と、ドアに鍵をかける。
矢崎の顔も見れない真由香は背中に手を沿えられ、今降りたばかりのエレベーターの方へ連れられるのだ。
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